更新日:2021-12-16
『亡くなった親族の遺言書に土地の名義変更について記載がある』
『不動産を遺言状の通りに名義変更したい』
『相続登記を司法書士に依頼する際に、遺言書があるか聞かれた』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
亡くなった方の遺品を整理していたら、遺言書が見つかったというケースもあるかと思います。
自筆証書遺言の場合、家庭裁判所の検認手続きは必要ですが、遺言書があれば相続登記の手続きが随分と楽になります。
この記事では遺言書がある場合の相続登記について、相続人へ名義変更する場合と相続人以外へ名義変更する場合とに分けて具体例を交えて解説しています。
この記事で分かること
そもそも遺言書とは?
遺言書とは、自分の死後、遺産をどのように分けてほしいのかを記載した法的な書類です。
人が亡くなると、その遺産は相続人に引き継がれますが、具体的に誰がどの財産を取得するかは、基本的には相続人全員が話し合って決めます。
被相続人が遺言書を残していた場合でも、その中に遺産分割を禁止する記載がない場合には、相続人全員の合意により、遺言とは違う取得の仕方にすることも可能です。
ただし、遺言は被相続人の最後の意思ですので、これを尊重し、遺言の内容に従って財産を分けることが多いかと思います。
遺言で財産を引き継がせる方法については特に制限はなく、
- 全財産を一人にまとめて譲る
- 法定相続分どおりに譲る
- 相続人以外の人に譲る
といった内容でも問題ありません。
遺言書によって被相続人の不動産を承継した場合には、その物件の所在地を管轄する法務局に対し、所有権移転登記を申請して名義を変更します。
ただし、遺言書があるときは、名義変更の前に、検認など一定の手続きをしなければならない場合があります。
必要な手続きを怠ったり、勝手に遺言書を開封したりした場合には、5万円以下の過料が科される可能性もありますのでご注意ください。
遺言書がある場合の相続登記のメリット
相続登記を申請する際に遺言書がない場合、一般的には次の書類・手続きが必要になります。
①戸籍の収集
②遺産分割協議
遺言書があると、通常の場合に比べ①②の手続きを簡単に進めることができます。
一般的な相続登記の手続きについて詳しく知りたい方は、『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本等一式が不要
①で集める戸籍は、原則として以下のものが必要です。
被相続人:出生から亡くなるまで、すべての戸籍・除籍・原戸籍謄本
相続人:被相続人が亡くなった日以降に発行された戸籍謄本(抄本)
一方、遺言書がある場合には、最低限、次の戸籍があれば手続きができます。
被相続人:亡くなったことがわかる、戸籍・除籍・原戸籍謄本(抄本)
相続人:被相続人が亡くなった日以降に発行された戸籍謄本(抄本)
法定相続人全員が手続きに関与する必要がない
②遺産分割を行う場合には、相続人全員が話し合いをしたうえで、それぞれが遺産分割協議書に実印を押す必要があります。
関連記事:やり直し出来る?遺産分割による相続登記(不動産の名義変更)について解説
特に相続人の数が多いと、意見がまとまらない、連絡が取れないなどの理由によって合意が整わず、手続きが進められなくなってしまうことも少なくありません。
他方、遺言書がある場合には、遺産を取得した人のみで相続登記手続きを行うことができます。
相続人へ名義変更する場合
ここからは、不動産を相続人が取得する場合の申請書や必要書類について説明をしていきます。
必要書類
遺言どおりの内容で登記手続きをする場合には、申請書と一緒に、遺言書も法務局に提出します。
コピーではなく原本を出さなければなりませんが、登記の完了後に返してもらうことができます。
なお、遺言書に従った結果、法定相続分どおりの取得となる場合には、添付しなくても問題ありません。
遺言書については、作成のしかたが民法で細かく決められており、所定の要件を満たしていない場合には、登記を通してもらうことができません。
方式が厳格に定められているのは、遺言が問題となるとき、すでにそれを書いた人はこの世におらず、真意を確かめることができないためです。
民法が規定している様式は、大きく分けて普通方式と特別方式があります。
特別方式は、死期が迫っている場合などに限定的に認められるもので、あまり件数は多くありません。
本稿では、一般的に用いられている普通方式を前提として話を進めていきます。
普通方式による遺言には、次の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
自筆証書遺言の場合
保管場所 | ①法務局の自筆証書遺言保管制度を利用している場合:法務局 ②①の制度を利用していない場合:自宅、貸金庫など |
裁判所の検認 | ①の場合:不要 ②の場合:必要 |
登記申請時 | ①の場合:法務局から発行される遺言書情報証明書を添付 ②の場合:遺言書(検認証明書つき)の原本を添付 |
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自筆証書遺言とは、遺言者が全文、日付、氏名を自署し、押印することで成立する遺言で、基本的にすべて手書きでなければなりません。
ただし、平成31年1月13日以降は、遺言書に財産目録を添付する場合には、その部分に限ってパソコンなどで作成することも認められています。
自宅など法務局以外の場所で遺言書を保管していた場合には、被相続人が亡くなったあと、家庭裁判所で検認の手続きする必要があります。
検認というのは、検認日時点での遺言書の状態や内容を明確にすることで、その後に偽造されたり廃棄されたりするのを防ぐための手続きです。
あくまで証拠を保全する趣旨でされる手続きですので、遺言書の内容が有効かどうかについては判断されません。
遺言の有効性について争いがある場合には、検認後に訴えを起こして裁判所に判断してもらうことになります。
手続にかかる期間は裁判所により異なりますが、申立てをしてから実際に検認が行われるまでに、1~2か月程度かかることが多いようです。
無事に手続きが終わったら、裁判所で「検認証明書」という書類を取得します。
検認証明書は遺言書の原本に綴じこまれて発行されるもので、これがないと、相続登記や預貯金解約などの手続きをすることができません。
令和2年7月10日以降は、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうこともできるようになりました。
この制度を利用している場合には、遺言書の偽造・廃棄のおそれはないため、検認の手続きを経る必要はありません。
相続登記などで遺言書が必要になったときは、法務局から原本の返却を受けるのではなく、
「遺言書情報証明書」という書類を発行してもらいます。
この証明書は遺言書の画像情報を表示したもので、遺言書そのものではありませんが、原本の代わりとして手続きに使うことができます。
秘密証書遺言の場合
保管場所 | 自宅、貸金庫など |
裁判所の検認 | 必要 |
登記申請時 | 遺言書(検認証明書つき)の原本を添付 |
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秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られたくない場合に用いられますが、実際にこの方式で作成されることは少ないようです。
遺言書は封印されていますが、公証役場や法務局で保管されるものではないため、偽造・廃棄の可能性は否定できず、検認手続きを省略することはできません。
公正証書遺言の場合
保管場所 | 公証役場 |
裁判所の検認 | 不要 |
登記申請時 | 遺言書の正本または謄本を添付 |
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公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。
専門家である公証人が作成するため書式の不備で無効になることがなく、また、公証役場で保管されるため、偽造や隠匿のおそれがありません。
そのため、検認の手続きは不要とされています。
遺言書の原本は公証役場で保管されるため、相続手続きの際には正本または謄本を使用します。
原本と同一の効力を持つものを「正本」、持たないものを「謄本」といいますが、どちらを添付しても問題ありません。
通常は、遺言書を作成した際に、遺言者に正本や謄本が渡されますが、紛失などにより相続人の手元にない場合には、公証役場で謄本を交付してもらうことができます。
登記申請書
【事例】
登記名義人Aが死亡した。
Aの相続人として子BCDがいる。
Aは、「不動産はBに相続させる」旨の遺言書を残していた。
登記の目的
対象不動産がAの単独名義のときは「所有権移転」、他の人と共有していた場合には「A持分全部移転」と記載します。
原因
遺言に基づいて相続人に対して名義を変更する場合には、通常は「相続」を原因として登記を申請します。
日付は、遺言書の作成日ではなく、遺言の効力が生じた日(遺言者が亡くなった日)です。
相続人
遺言によって定められた不動産を相続する人の住所、氏名を記載し、押印(認印可)をします。
なお、遺言執行者がいるときであっても、事例のように、不動産を取得する人が相続人である場合には、相続人が単独で相続登記を申請することができます。
遺言執行者というのは、遺産の管理など、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を与えられた人のことです。
すべての遺言について遺言執行者がいるわけではなく、例えば次の場合に選任・指定されます。
- 被相続人が、遺言書の中で指定したとき
- 利害関係人の申立てにより、家庭裁判所が選任したとき
添付書類(必要書類)
添付書類の表示 | 具体的な書類の例 |
登記原因証明情報 | 遺言書 Aが死亡したことがわかる戸籍・除籍・原戸籍謄本(抄本) Bの戸籍謄本(抄本) Aの死亡時の住所を証する住民票除票、戸籍附票など |
住所証明情報 | Bの住民票、戸籍附票、印鑑証明書など |
代理権限証明情報 | 遺言書、家庭裁判所の選任審判書 委任状 |
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登記原因証明情報
もしご自身で手続きをされる場合で、インターネットを利用して申請をされる場合には、申請時に登記原因証明情報をPDFで添付する必要があります。
この際には、遺言書だけでなく、被相続人が亡くなったことがわかる戸籍と、相続人の戸籍も送信します。
住所証明情報
新しく名義を取得する相続人(B)の住所を証明する書類を用意します。
代理権限証明情報
遺言執行者が申請手続きをする場合には、その権限を証明する書類を添付します。
- 遺言書で指定されている場合:遺言書、遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
- 裁判所で選任された場合:遺言書、遺言執行者選任審判書
遺言書や戸籍は、登記原因証明情報として添付するものと兼用が可能です。
同一性を証する情報
被相続人の最後の住所と、登記簿上の住所とが一致しない場合には、上記の必要書類のほかに、同一性を証する書類も必要となります。
実務では、次のどちらかを添付することが多いです。
- 被相続人が不動産を取得した際の権利証(登記識別情報、登記済証)
- 相続人全員からの上申書(全員の印鑑証明書つき)
課税価格
登記を申請する年度の固定資産評価額を記載します(1,000円未満切り捨て)。
記載例では、課税価格を2,000万円としています。
登録免許税
相続による所有権移転登記の登録免許税は、(課税価格)×0.4%です(100円未満切り捨て)。
課税価格が2,000万円の場合には、(2,000万円)×(0.4%)=8万円が登録免許税額となります。
相続人以外へ遺贈(名義変更)する場合
遺贈とは、遺言によって財産を他人に譲り渡すことをいいます。
遺贈を受ける人(受遺者)に制限はなく、相続人かどうかにかかわらず財産を遺すことができます。
そのため、事実婚の相手や孫など、法定相続人以外の人に対して財産を遺したい場合には、遺贈という方法がよく用いられます。
必要書類
遺言書については、相続人へ名義変更をする場合と同じく、必要に応じて検認証明書、遺言書情報証明書、公正証書謄本などを取得します。
登記申請書
【事例】
登記名義人Aが死亡した。
Aの相続人として子BCDがいる。
Aは、「不動産はEに遺贈する」旨の遺言書を残していた。
また、遺言執行者としてFが指定されている。
登記の目的
相続人への名義変更の場合と同様、単独名義の移転なら「所有権移転」、共有持分の移転なら「A持分全部移転」とします。
原因
Eは相続人ではありませんので、「相続」によって取得することはできず、原因は「遺贈」となります。
日付は、原則として遺贈の効力が生じた日(遺言者が亡くなった日)です。
ただし、対象の不動産が農地のときは、相続人以外の者に対して遺贈をするには、農地法所定の手続きを経なければ、所有権を移転させることができません。
農地法上の手続きを行ったのが被相続人の死亡後である場合には、許可書が到達した日または届出が受理された日が原因日となります。
権利者、義務者
相続人以外の人に対し遺贈による所有権移転登記を申請するときは、登記権利者と登記義務者とが共同して行います。
本来の登記義務者は遺言者ですが、亡くなった人は手続きができませんので、その地位を承継した相続人全員が申請人となります。
ただし、遺言執行者がいる場合には、その人が受遺者と一緒に登記手続きをすることができます。
- 遺言執行者がいる場合 権利者:受遺者 義務者:遺言執行者
- 遺言執行者がいない場合 権利者:受遺者 義務者:相続人全員
なお、受遺者を遺言執行者として指定することもでき、この場合には、財産を譲り受けた人だけで手続きをすることができます。
添付書類(必要書類)
添付書類の表示 | 具体的な書類の例 |
登記識別情報 (登記済証) |
Aが不動産の所有権を取得した際のもの |
登記原因証明情報 | 遺言書 Aの死亡時の住所を証する住民票除票、戸籍附票など Aが死亡したことがわかる戸籍・除籍・原戸籍謄本(抄本) |
印鑑証明書 | Fの印鑑証明書(申請日前3か月以内) ※遺言執行者がいない場合には、相続人BCD全員の印鑑証明書 (申請日前3か月以内)が必要 |
住所証明情報 | Eの住民票、戸籍附票、印鑑証明書など |
代理権限証明情報 | 遺言書、家庭裁判所の選任審判書 委任状 |
(スマホでは右にスクロールできます)
登記識別情報(登記済証)
被相続人が不動産を取得した際の登記識別情報または登記済証を用意します。
もし見当たらない場合には、司法書士などの専門家による本人確認情報の作成や、事前通知などの手続きが必要になります。
登記原因証明情報
登記の一般原則として、共同申請の場合には、報告形式の登記原因証明情報を提出してもよいとされています。
しかし、遺贈による所有権移転登記においては、この報告形式の登記原因証明情報は認められておらず、遺言書を添付する必要があります。
印鑑証明書
遺言執行者がいる場合にはその人の、いない場合には相続人全員分の印鑑証明書を添付します。
印鑑証明書は、申請日前3か月以内のものが必要です。
住所証明情報
相続による名義変更と同様、新たな名義人となる受遺者Eの住民票、戸籍の附票、印鑑証明書などを添付します。
代理権限証明情報
相続人への所有権移転登記の場合と同じです。
課税価格
登記を申請する年度の固定資産評価額を記載します(1,000円未満切り捨て)
登録免許税
遺贈による所有権移転登記の登録免許税は、(課税価格)×2%で計算します。
課税価格が2,000万円の場合には、(2,000万円)×(2%)=(40万円)となります。
前提として登記名義人住所、氏名変更が必要な場合
遺贈者の死亡時の住所が、登記簿上の住所と異なる場合には、遺贈による所有権移転登記の前提として、登記名義人の住所変更登記を申請する必要があります。
相続の場合には同一性を証する書類を添付すればよく、住所変更登記は不要でしたが、遺贈の場合には省略することはできません。
遺贈者の死亡時の氏名が、登記簿上の氏名と異なる場合も同様に、氏名変更登記を申請する必要があります。
この登記は遺贈による所有権移転登記の前提となるものですので、遺言の実現に必要な行為として、遺言執行者が申請することができます。
この記事の執筆者
-
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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