更新日:2022-03-23
『遺産分割調停が不調に終わり、遺産分割審判となった場合の手続きについて詳しく知りたい』
『他の相続人が相続登記手続きに協力してくれないから審判書をもって登記したい』
『遺産分割審判書に不動産の記載があるけどどうすればいいかわからない』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
遺産分割調停が不調に終わると、最終的に裁判所の終局的な判断である遺産分割審判がなされます。
遺産分割審判が確定すると、審判書に基づき不動産を取得する方が単独で登記申請可能です。
この記事では、被相続人の遺産の中に不動産があり、遺産分割審判がなされた場合の様々なケースについて解説しています。
審判書の記載内容に基づき登記申請手続きを検討している方の参考になると思いますので、よろしければ最後までご覧ください。
相続登記の全体について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
この記事で分かること
遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、被相続人の遺産の分け方を、家庭裁判所が強制的に決定することで行う遺産分割です。
遺産をどのように分けるかを決める手続きのことを遺産分割といい、次の3つの方法があります。
①遺産分割協議:相続人全員で話し合う
②遺産分割調停:相続人全員が家庭裁判所で話し合う
③遺産分割審判:家庭裁判所が強制的に決める
まずは①遺産分割協議がされることが多いですが、相続人の間で争いがあったり、関係者に連絡が取れなかったりするケースもあります。
話し合いが難しい場合には、相続人は、家庭裁判所に対し、②遺産分割調停や③遺産分割審判の申立てをすることができます。
②調停を経ずにいきなり③審判を申し立てることもできますが、その場合でも、まずは職権で調停が行われることが多いです。
関連記事:遺産分割調停成立後の相続登記|調停調書の文言や必要書類についても解説
調停をしても話がまとまらなかったときは、そのまま審判の手続きに移行します。
通常は何回か期日が設けられ、その間に当事者は自分の意見を述べたり、必要な書類を提出したりします。
裁判所は、審理が十分に尽くされたと考えたときは審判をし、最終的な判断を示します。
審判の内容は、裁判所で口頭で伝える、審判書の正本(謄本)を郵送するなどの方法によって、相続人に告知されます。
相続人が審判に納得できなかった場合には、不服を申し立て、さらに審理をするよう求めることができます。
この不服申し立てのことを即時抗告といい、審判の内容が伝えられてから2週間以内に行わなければなりません。
相続人の誰からも即時抗告がされなかったときは、告知から2週間を経過したときに、審判が確定します。
なお、審判と同じように裁判所が関与する解決方法として、調停や判決などがありますが、大まかにいうと次のような違いがあります。
審判 | 調停 | 判決 | |
審理の公開 | 非公開 | 非公開 | 公開 |
相手方の立会い | あり | なし | あり |
判断に際しての当事者の 同意の要否 |
当事者の同意は不要 裁判所の判断に従う |
当事者全員の同意が必要 | 当事者の同意は不要 裁判所の判断に従う |
作成される文書 | 審判書 | 調停調書 | 判決書 |
不服申し立て | あり | なし | あり |
確定 | 告知を受けてから2週間が経過したとき | 合意内容が調停調書に記載されたとき | 送達を受けてから2週間が経過したとき |
(スマホでは右にスクロールできます)
遺産分割審判書
審判書には、遺産分割についての裁判所の最終的な判断が記載されています。
当事者の表示、主文、理由の要旨などから構成されており、具体的な遺産の分け方は主文のところに書かれています。
(遺産分割審判書の見本)
協議や調停によって遺産を分割する場合には、当事者の合意があれば、指定相続分や法定相続分とは違う割合で分けることも可能です。
他方、審判による遺産分割の場合には、特別受益や寄与分がない限り、法定相続分どおりの割合での取得が命じられることが多いです。
遺産の具体的な分け方としては、次の4つの方法があります。
方法 | 内容 |
①現物分割 | 特定の相続人が遺産を取得する |
②代償分割 | 特定の相続人が遺産を取得する代わりに、他の相続人に対して金銭などの支払いをする |
③換価分割 | 第三者に遺産を売却し、その代金を相続人の間で分ける |
④共有分割 | 相続人が相続分に応じた持分で遺産を共有する、という内容の遺産分割をする |
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どの方法を取るかは裁判所が決めますが、原則としては①で行い、これが難しい場合には、②→③→④の順で検討していく、という運用がされているようです。
不動産を取得することになった相続人は、審判書を添付して、登記名義を自分へと変える申請手続きをすることができます。
法務局へは審判書の正本や謄本を提出しますが、取得するためには、予め裁判所に対して交付の請求をしておく必要があります。
審判書が手元に届くまでの期間は裁判所によって差がありますが、最後の期日が終わってから1~2か月後になることが多いです。
登記手続きの際に他の相続人の関与も必要になるかどうかは、審判書の記載や、共同相続の登記が入っているか、などの事情によって変わってきます。
【事例】
Aが死亡し、その相続人は子BCの2名である。
遺産分割審判の結果、A名義の土地は、Bが取得することになった。
㋐共同相続の登記がない場合
登記名義人がAのままのときは、Bが単独で、AからBへの所有権移転登記の申請をすることができます。
㋑共同相続の登記がある場合
すでに相続登記がなされており、登記の名義がBCになっている場合には、手続きはBCが共同して行うのが原則になります。
ただし、審判書に登記手続条項がある場合には、Bが単独で申請を行うことができます。
登記手続条項とは、「CはBに対し、別紙遺産目録記載の土地につき所有権移転登記手続きをせよ。」などのように、一定の登記を申請することを命じる文言のことです。
この文言があると、Cについては登記を申請する意思を示したものと擬制され、残りの関係者(B)のみで手続きを行うことが認められます。
審判書を使って登記申請をする場合の添付書類は、通常の場合とは少し違ってきます。
必要になりうる書類のうち特徴的なものとしては、次の4つが挙げられます。
共同相続の登記がない場合 | 共同相続の登記がある場合 | |
審判書の正本または謄本 | 必要 | 必要 |
執行文 | 不要
|
原則不要 ※ただし、登記義務の履行が一定の条件にかかるときは必要 |
送達証明書 | 不要 | 不要 |
確定証明書 | 必要 | 必要 |
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正本
遺産分割審判書には、原本、正本、謄本という区別があります。
原本 | 審判がされた際に裁判官が押印した文書 |
正本 | 権限のある人(裁判所書記官など)が原本に基づいて作成・認証した文書で、原本と同一の法的効力を持つ 文書の末尾に「これは正本である。」と記載されている |
謄本 | 原本をコピーしたうえで、権限のある人が原本の内容と同一である旨の認証をした文書 文書の末尾に「これは謄本である。」と記載されている |
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正本も謄本も、文書の内容を証明するという点では同じです。
そのため、法律などで正本を添付しなければならないと指定されていない限りは、謄本でも手続きをすることができます。
㋐共同相続の登記がない場合
相続による所有権移転登記に関しても、特に規定はありませんので、法務局に提出するのは、正本でも謄本でも、どちらでも問題ありません。
㋑共同相続の登記がある場合
登記手続条項があり、新たな名義人となる相続人が単独で申請する場合には、審判書の正本が必要となります。
執行文
債務名義(確定判決書など)の正本の末尾に付記された、強制執行をすることができることを示す文言のことを執行文といいます。
㋐共同相続の登記がない場合
もともと不動産を取得した相続人が単独で手続きをすることができ、相手方の協力は必要ありませんので、執行文も不要です。
㋑共同相続の登記がある場合
共同申請の場合であっても、遺産分割審判書については、原則として、執行文の付与を受ける必要はありません。
「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。」と規定されているためです(家事事件手続法75条)。
家事審判の対象となる事件は、債権者を保護する必要性が特に高いと考えられており、迅速に強制執行を進められるようにする趣旨です。
(現物分割の場合)
(主文例)
1 Bは、別紙遺産目録記載の土地を取得する。
→執行文は不要
(代償分割の場合)
(主文例)
1 Bは、別紙遺産目録記載の土地を取得する。
2 Bは、Cに対し、別紙遺産目録記載の土地を取得した代償として、金450万円を支払え。
→執行文は不要
ただし、例外的に執行文が必要になるケースもあります。
例えば、金銭の支払いと引き換えに登記手続きをする、といった記載があるときです。
この場合には、金銭の支払いが行われたときに、義務者が登記申請の意思を示したものと扱われます。
そのため、登記手続きをする条件が満たされたことを示すために、条件成就執行文の付与を受ける必要があります。
(条件付きで登記手続きが命じられた場合)
(主文例)
CはBに対し、BがCに金450万円を支払うのと引き換えに、別紙遺産目録記載の土地の持分全部移転登記手続きをせよ。
→条件成就執行文が必要
送達証明書
送達証明書は、債務名義の正本や謄本が債務者に送達されたことを証明する書類です。
強制執行をする時には添付が求められますが、登記申請の際には提出する必要はありません。
確定証明書
不服申し立てをすることができる裁判に基づいて登記を申請する場合には、審判などのほかに、審判が確定したことを証明する書類(確定証明書)も必要になります。
審判書を見ただけでは、審判が確定したのか、不服申し立てがあって審理が続いているのか、判断することができないためです。
遺産分割の審判も即時抗告をすることができる裁判ですので、登記の際には、審判書と一緒に確定証明書も提出します。
確定証明書は、審判をした裁判所に対して交付の請求をすると発行してもらえます。
即時抗告期間が過ぎたあとであれば、裁判所の窓口では即時に、郵送であれば1週間程度で、それぞれ入手することができます。
登記申請書
【事例】
Aは、令和2年3月26日に死亡した。Aの相続人は、子BCの2名である。
遺産分割審判の結果、A名義の土地はBが取得することになり、この審判は令和4年2月25日に確定した。
㋐共同相続の登記がない場合
この場合の登記申請は、審判書を添付し、Bが単独で行うことができます。
(申請書記載例)
※1 申請人
不動産を取得することになったBの住所、氏名、連絡先を記載し、押印します。
印鑑は、認印でも問題ありません。
※2 課税価格
不動産の固定資産評価額を記載します(1、000円未満切り捨て)。
被相続人が亡くなった年のものではなく、登記を申請する年度の評価額が必要です。
※3 登録免許税
相続による所有権移転登記の税率は0.4%で、100円未満を切り捨てた額が登録免許税の金額となります。
例えば、課税価格が3、000万円のときの登録免許税額は、(3、000万円)×(0.4%)=(12万円)です。
㋑共同相続の登記がある場合(登記手続条項あり)
(申請書記載例)
※1 申請人
Bが単独で登記を申請することができる場合でも、義務者としてCの住所・氏名を記載しなければなりません。
※2 登録免許税
遺産分割を原因として相続人に対して所有権を移転する場合には、課税価格の0.4%が登録免許税額になります(100円未満切り捨て)。
登記原因
㋐共同相続の登記がない場合
登記の原因日付には、審判が確定した日ではなく、被相続人が亡くなった日を記載します。
遺産分割は、相続が開始した時にさかのぼって効力が生じるためです。
また、遺産分割の結果として、Aの不動産についての相続人は初めからBのみであったという取り扱いになりますので、原因は「審判」ではなく「相続」になります。
㋑共同相続の登記がある場合
すでに登記されているCの持分が、遺産分割審判によってBに移転することになります。
そのため、原因日付には審判が確定した日、原因には「遺産分割」と記載します。
必要書類
添付書類名 | 具体的な書類 |
登記原因証明情報 | 【必ず添付する書類】 ・遺産分割審判書の正本・謄本 ※1 ・確定証明書 【場合によっては添付が必要となる書類】 ・Aの戸籍(除籍)謄本 ※2 ・Aの住民票除票または戸籍附票 ※3 ・BCDの戸籍謄本 ※4 |
住所証明情報 | Bの住民票、印鑑証明書、戸籍附票 ※5 |
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遺産分割審判(調停)の申立ての際には、次の戸籍を裁判所に提出します。
※1 遺産分割審判書の正本・謄本、確定証明書
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
この資料をもとに、審判手続きの中で相続関係が調査され、被相続人や相続人が審判書にも記載されます。
そのため、法務局に対しては、原則として、改めて戸籍一式を提出する必要はありません。
※2 被相続人の戸籍(除籍)謄本
審判書に被相続人の死亡日が記載されていない場合には、その日付を証明するため、被相続人の戸籍(除籍)謄本を添付します。
※3 被相続人の住民票除票または戸籍附票
被相続人の最後の住所が、審判書と登記簿上とで異なっている場合に必要となります。
※4 相続人の戸籍謄本
審判書には、通常であれば相続人全員の住所氏名が記載されますが、載っていない相続人がいた場合には、その人の戸籍謄本を用意します。
※5 不動産を取得する相続人の住民票、印鑑証明書、戸籍附票
新たに登記名義人となる人については、その住所を証明するため、住民票、印鑑証明書、戸籍附票などを添付しなければなりません。
審判書には相続人の住所が記載されていることが一般的ですが、これは住所を証明する書類として使うことはできません。
審判のあとで引越しをするなど、住所が変わっている可能性があるためです。
遺産分割審判で換価分割(不動産競売)を命じられた場合
上で説明した登記申請は、遺産分割の方法が現物分割や代償分割であったときの手続きです。
換価分割が命じられた場合には、流れが変わってきます。
裁判所が換価分割を命じる場面としては、次の2つがあります。
内容 | 換価の方法 | |
㋐中間処分として 行われる場合 |
遺産分割を取りまとめるために換価分割が必要な場合に、審判の途中で換価分割を命じるもの。 最終的な遺産分割の際に、売却代金を相続人間で分ける。 |
任意売却※ 競売 |
㋑終局審判として 行われる場合 |
最終的な遺産分割手段として、換価分割を命じるもの。 | 競売のみ |
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※任意売却は、相続人全員に異議がない場合のみ可能
換価のための手続きは、裁判所によって相続人の中から選任された換価人が行います。
換価人による登記手続きが必要になるのは、㋐の中間処分において、任意売却の方法による換価分割が命じられた場合です。
【事例】
Aが死亡し、その相続人はBCの2名である。
遺産分割審判の中間処分として、A名義の土地について、任意売却の方法による換価分割が命じられ、Dが買い受けることになった。
この場合には、次の2つの登記を順次申請する必要があります。
①被相続人(A)から相続人全員(BC)へ、相続による所有権移転登記
②相続人全員(BC)から買受人(D)へ、売買による共有者全員持分全部移転登記
①被相続人から相続人全員へ、相続による所有権移転登記
通常どおり相続人全員から申請することもできますし、一部の人だけが申請人となることも可能です。
相続人の一部の人が手続きをする場合には、他の相続人に代位するという形で申請を行います。
なお、審判の内容が、分配を受けるべき共同相続人のうち1人(例えば、B)を便宜的に、所有権登記名義人にする、となっていることがあります。
このような場合でも、代位による登記を申請するのはBに限られず、Cが手続きをすることもできます。
ただし、申請人とならなかった人については、登記識別情報は発行されません。
関連記事:債権者代位による相続登記|必要書類や競売の流れについても解説
②相続人全員から買受人へ、売買による共有者全員持分全部移転登記
登記権利者を買受人、登記義務者を相続人全員とし、買受人と換価人が、共同して申請します。
この申請の際にも、換価人の代理権限を証する書類として、審判書(確定証明書付き)を添付する必要があります。
この記事の執筆者
-
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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