更新日:2022-01-28
『墓地の名義変更手続について詳しく知りたい』
『お墓の土地は誰のもの?』
『墓地も相続登記義務化の対象になるのか知りたい』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
個人が墓地を所有していた場合、墓地が相続財産であるか祭祀財産かによって、手続きが大きく異なります。
また前提として墓地を所有していたと思っていたけれど、墓地の使用権しか取得していなかった場合には、登記手続きは必要なく、祭祀承継者が使用権を引き継ぎます。
この記事では、一般の方に馴染みのないお墓の基礎知識や墓地の相続登記手続きについて解説しています。
墓地の所有者が亡くなった場合の手続きの参考になると思いますので、よろしければ最後までお読みください。
相続登記の全体について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
この記事で分かること
墓地の定義
墓地とは、人の遺体や遺骨を埋めるための土地のことをいいます。
個人宅にある墓地から、地域住民によって利用されてきた共同墓地、大規模な霊園まで、日本では古くから様々な形の墓地が作られてきました。
代表的なものとしては、寺院墓地、民営墓地、公営墓地、個人墓地などあります。
寺院墓地 | 寺院が宗教活動として運営している墓地。 墓地の利用は、檀家・信徒に限定されていることが多い。 |
民営墓地(霊園) | 公益認定財団・社団法人や民間の会社が運営している墓地。 寺院などの宗教法人が公益活動として運営している事業型墓地も含まれる。 宗旨宗派を問わず、すべての人が利用することができる。 |
公営墓地(霊園) | 各地方公共団体の条例または規則に基づいて運営されている墓地。 その自治体の住民であることが利用条件とされていることが多い。 |
個人墓地 | 国・地方公共団体や法人以外の人が所有している墓地。 現在では新設することは難しい。 |
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寺院が運営する墓地には、寺院墓地と民営墓地の2種類があります。
お墓を建てられる人が自宗派の檀信徒に限られているのが寺院墓地、宗旨宗派を問わず広く一般に開放されているのが民営墓地です。
お墓は、民法では「祭祀財産」として扱われます。
祭祀財産というのは、系譜、祭具及び墳墓など、神や祖先をまつるために必要な財産のことです。
系譜 | 祖先からの血縁関係や系統関係を示した文書 ※家系図、過去帳など |
祭具 | 祭祀を行うために使用する用具 ※神棚、位牌、霊位、仏壇、十字架など |
墳墓 | 遺体を埋葬したり、遺骨(焼骨)を埋蔵したりするための施設 ※墓石・墓標、埋棺、霊屋など |
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また、上に挙げた財産のほかに、遺体や遺骨、墓地やその使用権についても、祭祀財産に含まれるとされています。
人が亡くなると、その遺産は相続人に引き継がれるのが原則です。
しかし、祭祀財産は遺産に含まれず、通常の相続とは違った処理がなされます。
ここからは、亡くなった人がお墓を持っていた場合の登記手続きについて説明をしていきます。
墓地の登記手続き
「お墓」というと墓石や墓標をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、これらを登記することはできません。
所有者として登記ができるのは、不動産である墓地(土地)のみです。
亡くなった人が墓地の登記名義人であったかどうかによって必要な手続きが変わってきますので、まずは墓地の所有者を調べる必要があります。
墓地については、昭和23年に施行された「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、「墓地埋葬法」といいます。)によって規律がされています。
この法律により、現在では、墓地を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければなりません(墓地埋葬法第10条第1項)。
墓地の永続性や非営利性を確保するため、原則として地方公共団体や宗教法人、公益認定法人などでなければ墓地の経営者となることはできないという取り扱いがされています。
そして、許可するかどうかを判断する際には、経営者が墓地となる土地を所有していることも考慮要件の一つとなるため、基本的には墓地の経営者と所有者は一致しています。
そのため、お墓があるのが寺院墓地、民営墓地、公営墓地であれば、墓地の所有者は寺院や地方公共団体、公益法人などの団体・法人となります。
他方、個人墓地は墓地埋葬法ができる前から作られてきたもので、今も全国各地に存在しています。
新しく個人墓地を作ることは難しいですが、既にあるものについては、行政の許可を得れば、そのまま墓地として所有・使用し続けることができます。
この場合には、個人が墓地の所有者となりますので、登記名義人を変更する手続きが必要です。
墓地の所有権を取得している場合
亡くなった人の財産の中に個人墓地がある場合には、土地の謄本を取得して所有者を確認します。
人の遺体や遺骨を埋葬するには、登記上の地目が「墓地」でなければなりません。
地目というのは用途によって土地を分類したもので、登記簿の最初の部分(表題部)に記載されています。
その下の権利部に記録されている人が墓地の所有者(登記名義人)です。
後で詳しく解説しますが、個人墓地の所有権を引き継ぐ方法には2つのパターンがあります。
- 祭祀財産として祭祀主宰者が引き継ぐ場合
- 相続財産として相続人が引き継ぐ場合
墓地の使用権しか取得していない場合
現在は個人が新たに墓地を作ることは認められていないため、お墓を建てたいときは、寺院や霊園の区画を使用することが一般的です。
「墓地の分譲」や「墓地の販売」と言われることもありますが、墓地の所有権は勝手に譲渡することはできません。
通常、寺院や霊園には墓地の使用規約があり、お墓を購入したい人はこれに従って契約を結びます。
これにより、購入者は一定区画の土地を墓地として使用することのできる権利を取得し、代わりに永代使用料や管理費を支払います。
この権利は、墓地使用権(永代使用権)と呼ばれています。
墓地使用権は墳墓そのものではありませんが、これを維持するために不可欠な権利ですので、祭祀財産に含まれると考えられています。
そのため、お墓の契約者が亡くなったとしても、墓地使用権がなくなるわけではなく、子孫や親族が引き続き墓地を使用することができます。
祭祀財産の場合
祭祀財産については、その所有者が死亡した場合でも、遺産として相続人が引き継ぐのではなく、祭祀を主宰すべき人が承継することになります。
通常の相続とは違い、相続放棄をした人や相続人ではない人も承継者となることができます。
所有者の死亡と同時に、法律上当然に権利が承継されるため、辞退したり放棄したりすることはできません。
辞退や放棄をしたい場合には、改めて祭祀承継者を指定する手続きが必要になります。
なお、所有者の死亡によって権利が引き継がれることが多いですが、生前に承継させることも可能です。
原則として承継する人は一人ですが、特別な事情がある場合には、複数人で引き継ぐことが認められることもあります。
祭祀を承継する人は、次の順番で決まります。
①被相続人が指定した人
②慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき人
③家庭裁判所が指定した人
①被相続人が指定した人
指定の方法は特に規定されていませんので、生前に決めることもできますし、遺言書に記載しても問題ありません。
生前に指定する場合、書面で残しておくことは要求されていません。
②慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき人
戦前の家制度のもとでは、祭祀財産は家督相続人が引き継ぐとされていました。
祭祀財産の承継について通常の相続とは違う規定が置かれたのは、戦前の家制度を残すという意図があったと言われています。
実際に、今の民法が施行された後も、男性・長子に承継させるケースも少なくありませんでした。
しかし、現在では、「慣習」とは旧法時代の家制度的な慣習ではなく、今の民法施行後新たに形成される慣習であるとされており、旧制度的な承継は否定されています。
③家庭裁判所が指定した人
実際には、被相続人の指定や慣習によって承継されるケースはあまりなく、まずは相続人や親族の間で話し合って決められることが多いです。
また、①②によって承継する人がいる場合でも、関係者の中で争いがある場合には、③裁判所に指定の申立てをすることも可能とされています。
裁判所は、形式的な親族関係で判断するのではなく、被相続人との生活関係や祭祀財産の継続的な管理といった実質的な部分を考慮して指定を行います。
①②③のどの方法によって決める場合でも、祭祀承継者の範囲に制限はありませんので、誰でも引き継ぐことができます。
ただし、祭祀財産が墓地使用権の場合には、使用規約などで、一定親等内の親族であることなどが承継者の条件となっていることもあります。
誰が引き継ぐか、承継時にどのような書類が必要になるかは、それぞれの墓地によって異なりますので、運営者に確認するようにしてください。
被相続人が墓地を所有していた場合には、登記名義人の変更手続きが必要になります。
墓地の登記名義人が死亡した場合の登記申請には、次の2つのパターンがあります。
㋐祭祀財産として申請する場合
㋑相続財産として申請する場合
㋐祭祀財産として申請する場合の申請書記載例
※1 登記の原因
財産の承継があった日を原因日とし、原因を「民法第897条による承継」と記載します。
※2 申請人
財産を引き継ぐ人を権利者、登記名義人の相続人全員(または遺言執行者)を義務者として、共同で手続きを行います。
申請書に押す印鑑は、権利者は認印でも問題ありませんが、義務者については実印が必要です。
※3 添付書面
- 登記識別情報:亡くなった登記名義人のもの
- 住所証明情報:権利者のもの
- 印鑑証明書:義務者となる相続人全員または遺言執行者のもの
また、祭祀財産の承継があったことを証明するため、登記原因証明情報として、例えば次のような書類を添付します。
被相続人が指定したとき | 遺言書、相続人全員が生前の指定の内容を確認した書面 |
慣習で決まったとき | 相続人全員が祭祀主宰者を確認した書面 |
家庭裁判所が指定したとき | 調停調書、審判書(確定証明書つき) |
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※4 登録免許税
墓地に関する登記については、登録免許税は課されません(登録免許税法第5条第10号)。
非課税になる場合、申請書に根拠となる法律の規定を書く必要があります。
墓地の場合であれば、「登録免許税法第5条第10号により非課税」のように記載します。
なお、申請の際、対象の不動産が祭祀財産であることを証明する書類を提出する必要はありません。
そのため、登記の地目が墓地である土地については、原因が「民法897条による承継」でも「相続」でも、どちらの場合でも申請は受理される扱いになっています。
実際には、「民法897条による承継」による所有権移転登記手続きがされることはあまりなく、「相続」を原因として申請されるケースが多いです。
相続財産の場合
亡くなった人が墓地を所有していたとしても、それが必ず祭祀財産になるとは限りません。
例えば、登記名義人以外の親族のお墓が建っているような場合です。
このときは、被相続人にとっては墓地は祭祀財産ではありませんので、通常の相続と同じように相続人に承継されます。
相続財産になるときは、墓地であるからといって特別な対応が必要になることはなく、遺産分割などによって、不動産を取得する人を自由に決めることができます。
関連記事:やり直し出来る?遺産分割による相続登記(不動産の名義変更)について解説
㋑相続財産として申請する場合の申請書記載例
※1 登記の原因
被相続人が亡くなった日を原因日とし、原因を「相続」と記載します。
※2 申請人
相続による所有権移転登記は、新たに登記名義人となる相続人が単独で申請することができます。
申請書に押す印鑑は認印でも問題ありません。
※3 登録免許税
相続を原因として申請する場合も、地目が墓地であれば登録免許税は非課税になります。
※4 添付書類
相続により所有権を移転する場合の主な必要書類は、次のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡まで、すべての戸籍・除籍・原戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本(抄本)
- 被相続人の最後の住所を証明する住民票除票や戸籍附票
- 相続人の住民票
- 法定相続分とは違う割合で取得する場合には、遺言書、遺産分割協議書など
相続登記義務化は墓地も対象?
令和6年(2024年)4月1日から、相続登記が義務化されることになりました。
これにより、次のケースに当てはまる場合には、一定期間内に名義変更の手続きをしなければならなくなります。
・「相続」によって所有権を取得した場合
・相続人が、被相続人から「遺贈」を受けた場合
取得する不動産の地目にかかわらず対象となりますので、墓地が相続財産となる場合にも申請しなければなりません。
申請の義務化は、令和6年(2024年)4月1日以前に発生した相続についても対象となります。
関連記事:相続登記が義務化|義務化された背景やその他の改正についても解説
数世代にわたって手続きがされていない場合、通常の相続登記よりも集める書類や関与すべき人が多く、登記申請ができる状態になるまでに時間がかかってしまいます。
心当たりがある方は、早めに手続きに着手されることをお勧めします。
一方、墓地が祭祀財産である場合には、義務化の対象とはならないと考えられます。
祭祀財産は、相続という概念によって承継されるものではないためです。
この記事の執筆者
-
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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