更新日:2022-01-15
『法定相続人が一人の場合の相続登記について知りたい』
『遺産分割協議がまとまらないからとりあえず法定相続分通りに登記したい』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
亡くなった故人が遺言書を残していた場合は、遺言書通りに登記可能ですが、遺言書を残していないことも多いと思います。
遺言書がない場合には、法定相続人全員で遺産分割協議をし、法定相続分とは異なる割合で登記をすることも可能です。
また、法定相続分通りに平等に登記するといったことも考えられます。
ただし、法定相続分で登記する場合には種々のデメリットがあるので注意が必要です。
この記事では、そもそも法定相続分とは何か、法定相続分通りに登記申請する場合の注意点や、様々な具体例の登記申請書ついて解説しています。
相続登記の全体について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
この記事で分かること
そもそも法定相続とは
法定相続とは、遺産を法律で決められた割合のとおりに引き継ぐことをいいます。
人が亡くなり、相続人が何人かいる場合には、財産を取得する人が遺産分割などによって確定するまでは、遺産は相続人全員の共有財産になります。
この共有財産に対して各相続人が持っている権利義務の割合を相続分といい、大きく次の3つに分けられます。
指定相続分 | 被相続人が遺言書の中で定めた割合 遺言により、第三者に相続分の指定を委託することもできる |
法定相続分 | 法律によって定められた割合 |
具体的相続分 | 特別受益や寄与分などを考慮して調整がされたあとの割合 |
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相続分は、遺言書がある場合にはその内容どおりに、ない場合には法律に従って決まりますが、これはあくまで遺産分割の目安にすぎません。
相続人全員の合意があれば、指定相続分や法定相続分と異なる取得のしかたを決めることもできます。
関連記事:やり直し出来る?遺産分割による相続登記(不動産の名義変更)について解説
法定相続分に関しては何度か法改正が行われており、原則として、被相続人が亡くなった時点で施行されていた規定が適用されます。
平成13年7月1日以降に相続が発生した場合の法定相続分は、下の表のとおりです。
法定相続人 | 法定相続分 | ||
第一順位 | 配偶者と子
|
配偶者 2分の1 子 2分の1 |
子が複数名いる場合 →それぞれの相続分は同じ 嫡出でない子がいる場合 →平成25年9月4日以前に確定的となった法律関係を除き、嫡出子と嫡出でない子の相続分は同じ |
第二順位 | 配偶者と直系尊属 | 配偶者 3分の2 直系尊属 3分の1 |
直系尊属が複数名おり、親等が違う場合 →親等の近い人が相続人になる 直系尊属が複数名おり、親等が同じ場合 →それぞれの相続分は同じ |
第三順位 | 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 4分の3 兄弟姉妹 4分の1 |
兄弟姉妹が複数名いる場合 →それぞれの相続分は同じ ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1となる |
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例えば、被相続人Aに配偶者Bと子CDがいる場合、法定相続分は、Bが2分の1、Cが4分の1、Dが4分の1となります。
法定相続分で登記をする場合の注意点
遺産を法定相続分どおりに分ける場合、金銭であれば、それぞれの持分割合に応じて分割することができます。
一方、不動産のように物理的に分割することが難しい財産の場合には、遺産分割が行われない限り、法定相続人全員で共有することになります。
登記の手続きは、相続人全員が申請人となって行うのが原則です。
ただし、法定相続分で登記をする場合には、保存行為として、特定の相続人が全員のために手続きをすることが認められています。
保存行為というのは財産の価値を維持するための行為のことで、それぞれの持分権者が、他の共有者の同意を得ることなく行うことができます。
そのため、保存行為で登記申請をする場合には、他の相続人が知らない間に勝手に共有状態になっていたということが起こりえます。
なお、特定の相続人のみが手続きする場合には、あくまで共有者全員のために申請することができるだけで、自分の持分についてのみ登記手続きをすることはできません。
登記が完了すると、新たな登記名義人に対して登記識別情報(いわゆる権利書)が発行されます。
相続人全員で申請をした場合には全員分の登記識別情報が発行されますが、特定の人のみが手続きを行ったときは、申請人となった人の分しか交付されません。
登記識別情報は、「その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合」に発行されるものだからです。
申請人とならなかった相続人の登記識別情報も発行してもらうためには、予め手続きをする人に対する委任状を作成しておく必要があります。
法定相続による相続登記の登記申請書
【事例】
登記名義人Aが死亡し、Aの不動産は配偶者Bと子CDが法定相続分どおりに取得することになった。
ケース① BCD全員が申請人になる
ケース② Bのみが申請人になる
ケース③ AからBCDへの登記手続きをしないうちに、Bが死亡した。 Bの遺産についてもCDが法定相続分の割合で取得することになった。
【ケース①-BCD全員が申請人になる場合】
(申請書記載例)
※1 相続人
新たに登記名義人となるBCD全員の住所氏名と持分を記載し、氏名の横にそれぞれの印鑑(認印でもよい)を押します。
※2 課税価格、登録免許税
課税価格は、登記を申請する年度の固定資産評価額(1,000円未満切り捨て)です。
登録免許税額は、(課税価格)×(0.4%)で計算します(100円未満切り捨て)。
【ケース②-Bのみが申請人になる場合】
(申請書記載例)
※1 相続人
全員から申請する場合と同じく、BCD3名の住所氏名と持分を記載します。
申請人となるBの氏名の前に「申請人」と記載し、Bのみが印鑑を押します。
【ケース③-数次相続の場合】
③はA死亡とBの死亡という2回の相続が発生している、いわゆる数次相続のケースです。
この場合には、次の㋐㋑の2件の登記申請が必要になります。
㋐AからBCDへの所有権移転登記
㋑BからCDへの持分移転登記
(㋐の申請書記載例)
※1 相続人
BCD3名の住所氏名と持分を書き、既に死亡しているBの氏名の前には「亡」と記載します。
CDは、自身がAの相続人として申請人となり、また、Bの相続人としてBの代わりに手続きを行う立場でもあります。
このことを示すため、CDの氏名の前に、「申請人・上記相続人」といった記載をします。
※2 課税価格、登録免許税
相続登記では、次の条件をすべて満たした場合には登録免許税が免除になるという特例措置が設けられています。
- 個人が土地の所有権を取得したこと
- 取得の原因が、相続、相続人に対する遺贈であること
- 取得者が、上記の原因による所有権移転登記手続きを行う前に死亡したこと
ケース③では、Bに関しては上の条件に当てはまっていますので、Bが取得する部分について登録免許税の免除を受けることができます。
特例の適用を受けるためにはその旨を申請書に記載する必要があり、上の図の「租税特別措置法第84条の2の3第1項により一部非課税」という記載がこれに該当します。
(㋑の申請書記載例)
※1 相続人
BがAから取得した持分2分の1を、Bの相続人CDが同じ割合で承継しますので、それぞれの持分は4分の1になります。
※2 課税価格
持分移転の場合の課税価格は、(申請する年度の固定資産評価額)×(移転する持分)で算出します。
関連記事:中間省略できる?数次相続が発生している場合の相続登記について解説
必要書類(添付書類)
【ケース①(相続人全員が申請人になる場合)】
添付書類 | 具体的な内容 |
登記原因証明情報 | ・Aの出生から死亡まですべての戸籍・除籍・原戸籍謄本 ・BCDの戸籍謄本(抄本) ・Aの最後の住所を証する住民票除票、戸籍附票 |
住所証明情報 | ・BCDの住所を証する住民票、印鑑証明書、戸籍附票など |
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【ケース②(Bのみが申請人になる場合)】
添付書類 | 具体的な内容 |
登記原因証明情報 | ・Aの出生から死亡まですべての戸籍・除籍・原戸籍謄本 ・BCDの戸籍謄本(抄本) ・Aの最後の住所を証する住民票除票、戸籍附票 |
住所証明情報 | ・BCDの住所を証する住民票、印鑑証明書、戸籍附票など |
代理権限証明情報 | ・CDからBへの委任状 |
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【ケース③(相続が複数回発生している場合)】
添付書類 | 具体的な内容 |
登記原因証明情報 | ・ABの出生から死亡まですべての戸籍・除籍・原戸籍謄本 ・CDの戸籍謄本(抄本) ・ABの最後の住所を証する住民票除票、戸籍附票 |
住所証明情報 | ・BCDの住所を証する住民票、印鑑証明書、戸籍附票など |
相続証明情報 | ・CDがBの相続人であることがわかる戸籍 |
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登記原因証明情報
法定相続分で登記をする場合の登記原証明情報としては、次の書類を添付します。
㋐被相続人の、出生から死亡まですべての戸籍・除籍・原戸籍謄本
㋑相続人の戸籍謄本(抄本)
㋒被相続人の最後の住所を証する住民票除票、戸籍附票
登記原因証明情報として添付する場合、戸籍に有効期限はありません。
ただし、㋑相続人の戸籍については、被相続人の死亡日よりあとに発行されたものでなければなりません。
法定相続一覧図を提出した場合には、㋐㋑の添付を省略することができます。
また、法定相続情報一覧図に被相続人の最後の住所も記載されており、これが登記簿上の住所と一致する場合には、㋒の添付に代えることができます。
法定相続分で登記をする場合には、遺産分割協議書や印鑑証明書を提出する必要はありません。
住所証明情報
個人が新しく登記名義人となる場合には、その人の住所と氏名が登記簿に記録されます。
そのため、住所を証明する書類として、相続人全員の住民票、印鑑証明書、戸籍の附票などを添付します。
ケース③のBのように、新しく登記名義人となる相続人が亡くなっている場合でも、登記に記録される以上、住所証明書を用意する必要があります。
死者の印鑑証明書を取得することはできませんので、この場合には、住民票の除票や戸籍の附票を用意することになります。
ただし、長期にわたって登記手続きを放置していたような場合には、保管期間の経過により住民票除票や戸籍の附票を取得できない可能性があります。
この場合には、本籍地と氏名での登記を認める法務局が多いようです。
代理権限証明情報
申請人自身が手続きをするのではなく、司法書士などに委任する場合には、代理権限証明情報として委任状が必要になります。
ケース②のようにBのみが申請人となる場合で、CDの登記識別情報の発行を希望するときも、CDからBに対する委任状を作成します。
(委任状記載例)
なお、事例でCDが未成年だった場合には、親権者であるBが法定代理人として登記手続きを行います。
この場合には、BがCDの法定代理人(親権者)であることを証する書類が代理権限証明情報となります。
具体的には戸籍謄本を提出しますが、これについては申請前3か月以内のものでなければなりません。
この記事の執筆者
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東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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