更新日:2021-12-31
『遺産分割による相続登記を検討している』
『一度法定相続分通りに登記をした後、再度名義変更をする場合の手続きについて知りたい』
『相続登記のやり直しが問題なく手続きできるのか不安』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
故人が不動産を所有している場合には、その不動産は原則として法定相続人全員の遺産共有状態となります。
この遺産共有状態を解消するために遺産分割協議を行い、不動産の名義を法定相続分とは異なる名義にすることが可能です。
なかなか不動産を承継する相続人が決まらない場合には、いったん法定相続分通りに登記をし、遺産分割協議により再度登記の名義を変更をすることも可能です。
この記事ではそもそも遺産分割協議とは何か、遺産分割協議があった場合の相続登記手続きについて、法定相続による登記前の手続きの場合と法定相続登記後の手続きの2パターンを具体例をもとに解説しています。
この記事で分かること
そもそも遺産分割とは
遺産分割とは、被相続人の遺産について、誰がどの財産を取得するのかを確定させる手続きです。
人が亡くなり、その相続人が複数いる場合には、遺産はいったん相続人全員が共有することになります。
この暫定的な共有状態を解消し、個々の財産の取得者を具体的に決める手続きが遺産分割です。
どのように分割するかについて制限はありませんが、次のいずれの場合も、財産を確定的に取得するためには、遺産分割の手続きが必要です。
- 相続人のうち一人が単独で取得する
- 相続人のうち数名が共有する
- 法定相続分どおりに取得する
- 相続人全員の共有とするが、法定相続分とは異なる持分割合にする
遺産分割の方法としては、次の4つが挙げられます。
①遺言による遺産分割方法の指定
②遺産分割協議
③遺産分割調停
④遺産分割審判
①遺言による遺産分割方法の指定
被相続人が残した遺言が、相続人のうちの一人または数人に特定の財産を承継させる、という内容になっていることが往々にしてあります。
例えば、「預貯金を○○に、不動産を○○に相続させる。」と記載されているような場合です。
こうした遺言があるときは、被相続人によって遺産分割方法が指定されたものと考えられますので、そこに記載された相続人が、当然にその財産を承継します。
関連記事:遺言書がある場合の相続登記について|必要書類や遺言執行者がいる場合は?
②遺産分割協議
遺言書がないときは、相続人全員の話し合いにより、誰がどの財産を取得するかを決めます。
相続開始後、遺産分割協議が行われる前に死亡した相続人がいる場合には、その人の法定相続人全員が、地位承継者として話し合いに参加する必要があります。
なお、遺言書がある場合でも、遺産分割を禁止する旨の記載がないときは、相続人全員の合意により、被相続人が指定した方法とは異なる分割をすることもできます。
③遺産分割調停、④遺産分割審判
相続人間で合意がまとまらないときや、分割協議をすることができないときには、各相続人は、家庭裁判所に遺産分割を請求することができます。
裁判所による分割には、調停と審判とがあります。
調停は、大まかに言うと、裁判所の関与のもと、相続人間で話し合いをして分割方法を決める手続きです。
他方、審判においては、裁判所が強制的に分割方法を決定します。
相続人は、どちらの申立てをすることもできますが、審判の申立てをした場合でも、まずは職権で調停に付されるのが通常の流れです。
調停がうまくいかないときは、そのまま審判手続きに移行し、分割が行われます。
遺産分割が成立すると、相続の開始時に遡って効果が生じます。
例えば、相続人BCD間で、不動産はBが取得するという遺産分割がされた場合には、この物件については、初めからBのみが相続人であったという扱いになります。
ただし、Bが権利を取得したことを当事者(CやD)以外の第三者に対しても主張するためには、名義変更の登記手続きをする必要があります。
関連記事:遺産分割調停成立後の相続登記|調停調書の文言や必要書類についても解説
関連記事:遺産分割審判による相続登記|登記原因や競売となった場合についても解説
遺産分割協議書が必要な場合
法定相続分どおりの割合で名義変更をしない場合には、登記申請の際に、遺産分割があったことを証明する書類を提出しなければなりません。
遺産分割の方法 | 添付する書類 |
①遺言による遺産分割方法の指定 | 遺言書 ※法務局で保管されていた自筆証書遺言 公正証書以外の場合には、検認済証明書が必要 |
②遺産分割協議 | 遺産分割協議書、遺産分割協議証明書 ※相続人全員の印鑑証明書つき |
③遺産分割調停 | 調停調書 ※被相続人の死亡日が記載されていないときは、死亡の記載がある戸籍謄本等も必要 |
④遺産分割審判 | 審判書 ※確定証明書つき ※被相続人の死亡日が記載されていないときは、死亡の記載がある戸籍謄本等も必要 |
(スマホでは右にスクロールできます)
①は被相続人や公証人が、③④は裁判所が、それぞれ作成します。
②の遺産分割協議書については、相続人自身で作成するか、または司法書士や行政書士などの専門家に依頼して作成してもらう必要があります。
公正証書遺言や調停調書、審判書であれば、登記を申請する際に添付するのは謄本でも問題ありません。
他方、相続人や司法書士が作成した遺産分割協議書については、原本を法務局に提出しなければなりません。
ただし、協議書は銀行の口座解約や相続税の申告などの際にも必要となるものですので、登記手続きの終了後に返してもらうことができます。
関連記事:放置してもかかる?相続登記(不動産の名義変更)と相続税について解説
遺産分割協議による相続登記の流れ
遺産分割協議がされた場合の登記手続きは、すでに法定相続分による相続登記がされているかどうかによって違ってきます。
まずは、共同相続の登記がない場合の手続きについて説明していきます。
相続登記の全体について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
【事例①】
令和3年3月26日、登記名義人であるAが死亡した。
相続人は配偶者Bと子CDである。
令和3年12月28日、不動産についてはBが取得するという遺産分割協議が成立した。
被相続人名義の不動産について、遺産分割の結果、特定の人が権利を取得することとなった場合には、直接その相続人に対して名義を移すことができます。
この登記手続きは、新たに名義を取得した相続人が単独で行います。
登記申請書
登記の目的
Aが不動産を単独で所有していたときは「所有権移転」、他の人と共有していた場合には「A持分全部移転」とします。
原因
遺産分割の効果は相続の開始時に遡って生じますので、不動産については、Aの死亡によりB一人が権利を承継することになります。
そのため、登記原因は「相続」、原因日付はAの死亡日を記載します。
相続人
新たに登記名義人となるBの住所と氏名を記載します。
権利を取得しなかったCとDは申請人にはなりませんので、その住所氏名を申請書に書く必要はありません。
必要書類(添付書類)
申請書のほかに、添付書面として次の書類を提出します。
- 登記原因証明情報
- 住所証明情報
- 代理権限証明情報
登記原因証明情報
相続による所有権移転登記の場合、登記原因証明情報として次の書類を添付します。
㋐被相続人(A)の出生から死亡までの戸籍・除籍・原戸籍謄本
㋑相続人(BCD)の戸籍謄本(抄本)
㋒被相続人(A)の最後の住所を証する除票、戸籍附票など
㋓遺産分割の成立を証する書面 (遺言書、遺産分割協議書、遺産分割調停調書、遺産分割審判書など)
なお、法定相続情報一覧図の写しを添付したときは、㋐㋑を提出する必要はありません。
また、一覧図の写しに記載された被相続人の最後の住所が、登記簿上のものと同じ場合には、㋒の添付を省略することができます。
㋓のうち、遺産分割協議書は特に決まった書式はありませんが、被相続人や取得する財産の特定が不十分だと、登記手続きができなくなってしまう可能性があります。
(記載例-遺産分割協議書)
様式や記載内容自体は自由ですので、例えば次のような分割協議書でも問題ありません。
- 不動産のみについての協議書、預貯金のみを記載した協議書など、個々の財産ごとに作成する
- 相続人の人数分、同じ内容の書類を作成し、各相続人がそれぞれ署名押印する
- 署名押印ではなく、記名押印
また、必ずしも「遺産分割協議書」というタイトルの書類である必要もなく、遺産分割協議証明書も登記原因証明情報とすることができます。
(記載例-遺産分割協議証明書)
遺産分割協議書や遺産分割協議証明書には、相続人全員が実印を押し、それぞれの印鑑証明書も添付します。
この印鑑証明書に期限はなく、申請から3か月以内である必要はありません。
住所証明書
申請人であるBの住所を証する書類として、住民票、戸籍の附票、印鑑証明書などを添付します。
なお、登記原因証明情報として法定相続情報一覧図の写しを添付しており、そこに相続人の現在の住所が記載されている場合には、これを住所証明情報とすることができます。
代理権限証明情報
司法書士などに登記手続きを依頼した場合には、代理権限証明情報として委任状も添付します。
委任状に押すBの印鑑は、認印でも問題ありません。
課税価格
登記を申請する年度の固定資産評価額を記載します(1、000円未満切り捨て)。
登録免許税
「相続」を原因とする所有権移転登記の場合、(課税価格)×(0.4%)が登録免許税額となります(100円未満切り捨て)。
相続登記後、遺産分割協議を行った場合
ここからは、いったん法定相続分による登記がなされ、そのあとに遺産分割協議が成立した場合の登記手続きについて見ていきます。
関連記事:法定相続分による相続登記の流れ|保存行為で単独申請する場合についても解説
更正登記
更正登記とは、事実とは異なる内容が記録されている場合に、これを正しい状態に直すための登記のことをいいます。
更正登記の登録免許税は(1,000円)×(不動産の個数)ですので、所有権移転登記よりも安くなることがほとんどです。
ただし、現在のところ、共同相続の登記後に遺産分割が行われた場合には、更正登記ではなく、所有権(持分)移転登記を申請すべきとされています。
すでにされた法定相続分による登記が誤っているわけではなく、遺産分割によって新たな権利変動があったと考えられるためです。
なお、上記の場合とは異なりますが、いちど遺産分割による登記がされたあとに、相続人全員の関与のもと、分割協議をやり直すケースがあります。
この場合にも、すでにされた相続登記を更正することはできず、先の登記を抹消したうえで、改めて所有権移転登記を申請することになります。
遺産分割による移転登記
【事例②】
登記名義人Aが死亡した。
相続人は配偶者Bと子CDである。
法定相続分による登記がなされたあと、令和3年12月28日、BCD間で遺産分割協議が行われ、不動産はBが取得することになった。
この場合には、権利を取得した相続人が単独で登記手続きをすることはできず、権利を手放した相続人と共同で申請しなければならないとされています。
また、先ほども触れましたが、現在の実務では、更正登記ではなく所有権移転登記の手続きを行っています。
ただし、この取り扱いは、今後は変更される可能性が高いです。
令和3年4月21日、相続登記を義務化する法律が成立し、令和6年4月1日から施行されることとなりました。
改正法は、法定相続分による相続登記がされたあとに遺産分割がされた場合には、分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければならないと規定しています。
この際の登記手続きについて、現在の運用が変更され、登記権利者が単独で更正登記を申請することができるようになる見通しです。
ある手続きについて更正登記とするか移転登記が必要かは、法律で規定するのではなく、法務局の運用で決められることも少なくありません。
遺産分割による登記手続きも、法改正ではなく法務局の取扱いの変更という形でされるものですので、いつから変わるのかなどは、現時点では不明です。
関連記事:相続登記が義務化|義務化された背景やその他の改正についても解説
登記申請書
本稿執筆時点では、まだ運用の変更はされていませんので、遺産分割による所有権移転登記を共同で申請するものとして説明していきます。
登記の目的
共同相続の登記によりCDが取得した持分をBに移転しますので、「C、D持分全部移転」とします。
「Bを除く共有者全員持分全部移転」という記載をすることもできます。
原因
AではなくCDから権利を取得しているため、原因は、相続ではなく「遺産分割」となります。
原因日付は、協議や調停による場合はそれが成立した日、審判によるときはそれが確定した日です。
権利者、義務者
遺産分割によって不動産の権利を取得し、持分が増えた人(B)が権利者、持分が減った人(CD)が義務者となります。
必要書類(添付書類)
遺産分割による所有権移転登記の、主な必要書類です。
- 登記識別情報
- 登記原因証明情報
- 印鑑証明書
- 住所証明情報
- 代理権限証明情報
登記原因証明情報
遺産分割の成立を証する書面として、遺産分割協議書、遺産分割調停調書、遺産分割審判書などを添付します。
登記識別情報(登記済証)
法定相続による登記の際には、原則として各相続人分の登記識別情報が発行されます。
このとき発行された登記識別情報のうち、CDの分を提供します。
なお、共同相続の登記をしてから遺産分割が成立するまでに期間が開いている場合には、登記識別情報ではなく登記済証が発行されている可能性があります。
この場合には、権利者も含めた相続人全員分が一冊にまとまっていることが多いです。
印鑑証明書
義務者であるCDの印鑑証明書を添付します。
遺産分割協議書に添付するときとは違い、この印鑑証明書は申請前3か月以内のものでなければなりません。
なお、共同相続の登記の後にCやDが引っ越しており、印鑑証明書上と登記簿上とで住所が一致しない場合には、前提として住所変更登記が必要となります。
住所証明書
権利者であるBの住民票、戸籍の附票、印鑑証明書などを提出します。
代理権限証明情報
司法書士に委任する場合には、委任状が必要です。
委任状は、申請人となるBCD全員からもらう必要があります。
義務者であるCDは実印でなければなりませんが、権利者であるBは認印でも問題ありません。
課税価格
持分移転の場合には、不動産全体の評価額に、移転する持分をかけて課税価格を算出します。
事例の場合、(全体の評価額1,500万円)×(移転する持分2分の1)=750万円となります。
登録免許税
遺産分割による所有権移転登記の登録免許税は、(課税価格)×(0.4%)です。
事例の場合には、(750万円)×(0.4%)=(3万円)となります。
この記事の執筆者
-
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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