更新日:2021-10-15
『親族が亡くなったから不動産の名義変更手続きを検討している』
『相続登記の法改正点について詳しく知りたい』
この記事は、そのような方に向けて書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
相続登記の義務化に伴い、相続登記の手続きを検討していらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
今回は、相続登記について近年法改正された点も含め、図解イラストつきで網羅的に解説しています。
この記事で分かること
相続登記とは?
人が亡くなると、その人が持っていた財産や権利義務は、基本的には亡くなった人の家族や親族に引き継がれます。
これを「相続」といい、法律の世界では、人が亡くなったことを、「相続が発生した」「相続があった」「相続が開始した」などと表現します。
また、亡くなられた方のことを「被相続人」、被相続人の財産などを受け継ぐ権利がある人のことを「相続人」と呼びます。
相続で取得した財産については、相続人が自由に処分することができますが、中には一定の手続きをしなければならないものもあります。
例えば、財産の中に預貯金があり、そのお金を使いたい場合には、被相続人名義の口座について、解約や名義変更の手続きをする必要があります。
不動産(土地、建物、家屋、マンション、山林、農地など)を持っていた場合には、登記簿に被相続人の住所・氏名などが記載されています。
登記簿の名義を変えるためには、被相続人から相続人へ、相続や遺贈を原因として所有権移転登記を申請しなければなりません。
この登記手続きのことを、一般に「相続登記」と呼んでいます。
相続登記の申請は、被相続人が持っていた不動産を管轄する法務局に対して行います。
相続登記の期限
本稿執筆時点では、相続登記の期限はありません。
そのため相続登記の手続きをするかどうかは、相続人の判断に任されています。
しかし、2021年4月に相続登記を義務化するという法改正が行われ、2024年までに施行されることとなりました。
法律の改正は、
①国会での改正法の成立
②公布(改正法が成立したことを世間に知らせる)
③施行(実際の運用開始)
という段階を経て行われます。
③の施行日は、「公布の日から起算して〇年を超えない範囲内において政令で定める日」という形で定められることが多いです。
公布日と施行日がずれるのは、改正の内容を周知したり、細かい手続きなどを決めたりするために、ある程度の時間が必要になるためです。
世間への周知や準備にどれくらいの期間が必要になるかは、個別の規定ごとに判断されるため、同じ日に行われた法改正でも、施行日が同じになるとは限りません。
最近行われた法改正のうち、本稿で取り上げるものを、下の表にまとめました。
ここからは、上の表のうち、①②③について詳しく見ていきます。
④⑤⑥については、後半部分の関連する項目のところでそれぞれ説明します。
なお、まだ詳細な内容や手続きが決まっていない部分も多いため、本稿執筆時点で法務省から発表されている情報に基づいて、解説をしていきます。
①相続登記の義務化
申請義務があるのは、不動産の登記名義人から、相続または遺贈によって所有権を取得した相続人です。
登記の申請は、自分のために相続があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内にしなければなりません。
どの時点から3年以内なのか、少しわかりづらい書き方になっていますが、基本的には、登記名義人が亡くなった日から数えることになると思われます。
身近な家族や親族が亡くなった知らせはすぐに届き、その時点で自分が相続人であることなどを認識できると考えられるためです。
ただし、疎遠になっていたり、相続関係が複雑だったりして、登記名義人が亡くなったことや自分が相続人であることを、すぐには認識できないケースもあります。
このようなケースでは、実際に認識をした日から3年以内となります。
改正法が施行された後に登記名義人が亡くなったときだけでなく、施行前に相続があった場合についても、申請が義務づけられます。
この場合の申請期限は、次の二つのうち、どちらか遅い日から3年以内となります。
- 改正法の施行日
- 自分のために相続があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日
関連記事:相続登記が義務化|義務化された背景やその他の改正についても解説
②相続人申告登記(仮称)の新設
誰が相続人になるのかを調査するのに時間がかかる、相続人の間で話がまとまらない、などの理由で、3年以内に登記を申請することが難しいケースも少なくないと思われます。
そこで、相続登記の義務化と同時に、相続人申告登記(仮称)の制度が設けられることになりました。
この制度は、登記官に対し、㋐㋑の事項を申し出たときは、相続登記の申請義務を履行したとみなされる、というものです。
㋐登記名義人について、相続が開始したこと
㋑自分が登記名義人の相続人であること
相続人が何人かいる場合には、申出をした人のみが、義務を果たしたことになります。
この手続きを行うと、申出があった旨や申出人の住所・氏名が、登記簿に記録されます。
通常の相続登記の手続きは、相続人の範囲や持分割合を確定させてから行う必要がありますが、相続人申告登記では、そこまで求められません。
手続きの際に添付する書類も、必要最小限のもので足りるようです。
ただし、相続人申告登記は、登記申請の義務から相続人を解放するための救済措置のような手続きであって、相続登記とは異なります。
そのため、その後に相続人の間で話がまとまり、正式に所有権を取得することが決まった場合には、その時から3年以内に、相続登記の申請をしなければなりません。
③単独申請ができるケースの拡大(遺贈)
遺贈とは、相続人や相続人以外の者に対し、遺言によって財産を無償で譲ることです。
遺贈により財産をもらうことになる人を受遺者、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人を遺言執行者といいます。
現在のところ、遺贈による所有権移転登記の手続きをするためには、受遺者と遺言執行者とが共同で申請をしなければなりません。
遺言執行者がいない場合には、受遺者と、遺贈をした人(被相続人)の相続人全員が手続きに関与する必要があります。
改正法が施行されると、相続人に対する遺贈については、その所有権移転登記手続きを、受遺者が単独で行うことができるようになります。
相続登記をしないとどうなる?
相続登記の義務化をはじめとする各種の法改正は、国が進めている「所有者不明土地の解消に向けた」取組みの一環として行われたものです。
現在、所有者が誰なのかがわからない不動産が全国各地に多数存在しており、これが公共事業や民間の取引を妨げています。
このような事態になった大きな要因の一つとして、相続登記が放置されていることが挙げられます。
手続きには手間や費用がかかる一方、義務ではないことから、相続登記を行わないままにしている人も少なくありません。
そこで、相続登記の義務化や、手続きがしやすいような制度の整備など、登記の申請を促すための方策がとられています。
ただ、仮にこのような法改正がなかったとしても、相続登記の手続きをしないままでいるのは、あまりお勧めできることではありません。
ここからは、相続登記をしないことによるデメリットを、いくつか挙げてみます。
相続登記義務化に伴う過料
改正法の施行により相続登記が義務化されたあとは、正当な理由がないのに手続きを怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記の手続きを促し、現在の所有者を早期に確定させる趣旨です。
とはいえ、一定の期間が経過しただけでいきなり過料が科されてしまうとなると、相続人にとっては大きな負担です。
また、期限が過ぎてしまった場合に、過料をおそれて手続きを躊躇してしまうことも考えられ、かえって相続登記の放置を増やす事態になりかねません。
そのため、まずは法務局から相続人に対して申請をするよう催告を行い、これに応じなかった場合に過料を検討する、という手続きが予定されています。
どのような事情が「正当な理由」にあたるかについては、例えば、次のような場合が想定されているようです。
- 相続関係が複雑な場合
- 相続人間に争いがある場合
- 相続人が重病の場合
なお、「正当な理由」があるとされる場合でも、過料が科されないだけで、登記の申請義務自体を免れることはできません。
不動産を売却出来ない
【ケース①】
自己名義の不動産で一人暮らしをしていたAが死亡した。
他に住む人もいないため、Aの相続人Bは、この不動産を売却したいと考えている。
不動産の売買があったときは、売主から買主へ、売買による所有権移転登記を申請します。
この手続きを行うためには、前提として、AからBへ登記の名義変更がされている必要があります。
申請の際には売主の印鑑証明書を法務局に提出するのですが、ここに記載されている住所・氏名は、登記簿上の所有者の住所・氏名と完全に一致していなければならないためです。
実際には、名義変更の手続きをしていない場合、売買契約さえ交わせないことも少なくありません。
買主になろうとする人から見ると、相続登記がされていない状態では、Bが本当に不動産の所有者なのか、確認することが難しいためです。
不動産を担保に出せない
【ケース②】
Aは、自己名義の不動産で事業を行っていた。その後Aが死亡し、相続人Bが事業も引き継ぐことになった。
Bは、この不動産を担保にして、銀行から融資を受けたいと考えている。
銀行は、不動産について抵当権(根抵当権)設定登記の手続きを行うことを条件に、融資を行います。
この場合にも、売却の場合と同じ理由で、前提としての相続登記手続きが必須となります。
相続関係が複雑になる
【ケース③】
登記名義人Aが死亡した。Aの相続人は、BCDの3名であるが、相続登記の手続きをしないまま、BとDも死亡してしまった。
Bの相続人はEFG、Dの相続人はHIJKである。
相続人が何人かいる場合、被相続人の財産を誰が取得するかは、基本的には相続人同士で話し合って決めます。
この話し合いのことを、遺産分割協議といいます。
Aの不動産についての遺産分割協議は、本来はAの相続人BCDの3名が行わなければならなかったのですが、それをしないままBとDが死亡しています。
この場合、それぞれの相続人が遺産分割協議をする地位を引き継ぎますので、EFG、C、HIJKの合計8名の間で合意を成立させる必要があります。
放置している期間が長くなるほど、何代にもわたって相続が発生する可能性が高くなり、手続きに関与すべき人が増えていきます。
相続が繰り返され、相続人が孫や甥姪になってくると、相続人同士の面識が一切なく、お互いの連絡先さえ知らないということも少なくありません。
いざ手続きをしようとしても、このような状態で話をまとめるのは、容易なことではありません。
関連記事:手続きしなくてもいい?亡くなった祖父母の土地建物の名義変更について解説
関連記事:中間省略できる?数次相続が発生している場合の相続登記について解説
重度の認知症を患った相続人が出てくる
【ケース④】
登記名義人Aが死亡した。A所有の不動産には、配偶者Bが一人で住み続けていたが、最近になって重度の認知症と診断されてしまった。
ABの子Cは、Bの療養・介護費用に充てるため、A所有の不動産を売却したいと考えている。
先ほど説明したとおり、A名義の不動産を売却するためには、前提として、登記の名義を相続人名義へと変更しなければなりません。
しかし、遺産分割協議や登記申請の手続きには、一定の判断能力が必要とされますので、認知症を患っているB自身がこれを行うことはできません。
この場合、裁判所に対して成年後見開始等の申立てをし、Bに代わって手続きをする人を選任してもらう必要があります。
後見人の選任にかかる期間は裁判所により異なりますが、1~3か月程度のことが多いようです。
登記手続きを放置している期間が長くなるほど、相続人の高齢化も進み、判断能力が低下してしまうリスクが高まります。
相続人の債権者が法定相続分を差し押さえ
【ケース⑤】
登記名義人Aが死亡し、相続人BCの間で、Cが不動産を取得するという合意が成立した。
しかし、Cが相続登記の手続きをしないうちに、Bにお金を貸していたDが、Bの法定相続分を差し押さえた。
遺産分割協議が成立すると、相続の開始時にさかのぼって効果が生じます。
事例では、Aの不動産に関しては、当初からC一人が相続人だったことになります。
ただし、このことを当事者(B)以外の第三者に対して主張するためには、登記の名義をCに変更している必要があります。
一方、法定相続人の債権者は、被相続人名義の不動産について、相続人の法定相続分を差し押さえることができます。
Cの権利取得とDの差押えのどちらが優先するかは、登記の先後によって決まります。
⑤のケースでは、Cが相続登記手続きをする前にDの差押えの登記がなされていますので、Dが優先します。
そのため、Cは、Bの法定相続分(2分の1)については、Dに対し、自分が所有者であると主張することができません。
仮にB持分の競売が行われ、Fが競落した場合には、不動産はCとFの共有になってしまいます。
相続税で損をする可能性がある
【ケース⑥】
登記名義人Aが死亡した。
相続人は、配偶者B、子C、子Dの3名である。
Aの主な財産としては、不動産(8,000万円)、預貯金(1,000万円)がある。
遺産の額が基礎控除額(事例では3,000万円+600万円×3=4,800万円)を超えると、相続税が課される可能性が出てきます。
相続税には、いろいろな控除・軽減措置がありますが、特に減税の効果が大きい制度として、配偶者控除と小規模宅地の特例が挙げられます。
配偶者控除は、配偶者が財産を取得した場合に、一定金額を上限として、負担すべき相続税額から控除することができる制度です。
小規模宅地の特例は、被相続人が居住や事業に供していた土地について、一定の要件を満たす場合には、一定額を相続税の対象額から控除することができるというものです。
どちらの制度も、遺産分割が終わっていることが適用の条件になりますので、手続きをしないと、原則どおりの税額を支払うことになりかねません。
関連記事:放置してもかかる?相続登記(不動産の名義変更)と相続税について解説
誰を登記名義人にする?
ここまで見てきたように、相続登記の手続きを放置していると、後々困った事態になってしまうことも少なくありません。
相続により不動産の所有権を取得したときは、早めに名義変更の手続きをするようにしましょう。
では、新しい登記の名義人は、どのような形で決まるのでしょうか。
登記名義人・被相続人がA、相続人が3名(配偶者B、子C、子D)、Dには子Eがいる、という例で見ていきましょう。
①Aが亡くなると、Aが持っていた不動産や預貯金などの財産は、いったん相続人であるBCD全員が共有(遺産共有)している状態になります。
②その後、遺産分割協議などにより、誰がどの財産を取得するかを確定させます。下の図では、Bが不動産を取得するものとしています。
③新しい登記名義人が決まったので、相続登記により、名義をAからBに移します。(図の赤の矢印。① →② →③の流れ)
また、話し合いに時間がかかりそうな場合などには、法定相続分の割合で登記を入れておくこともできます。(①’)
この場合には、相続人同士の合意が整い、Bが所有権を取得することが確定したら、もう一度登記を申請し、CDの持分をBに移します。
(図の青い矢印。① →①’→② →②’の流れ
また、最初のほうで説明したように、相続登記が義務化されたあとは、申請期限もあります。
誰がどの財産を取得するかを決める方法として、次のようなものが挙げられます。
- 遺言書
- 遺産分割協議
- 法定相続分どおり
- 遺産分割調停
- 相続分の譲渡
遺言書の通り
Aが遺言書を作っていた場合は、基本的にはその内容に従います。
例えば、「~はBに相続させる。」といった文言がある場合には、その財産についてはBが取得するものとして手続きを進めます。
ただし、遺言書の中でB以外の人が取得することを禁止されていない場合には、相続人全員の合意があれば、遺言とは違う財産の分け方をすることも可能です。
一方、「~はEに相続させる。」のように、Aの相続人ではない人が指定されている場合には、「相続」ではなく「遺贈」を原因として所有権移転登記を申請します。
関連記事:遺言書がある場合の相続登記について|必要書類や遺言執行者がいる場合は?
遺産分割協議で決める
Aが遺言書を残していない場合には、通常はBCDの間で遺産分割協議を行い、権利を取得する人を決めます。
遺産分割協議では、相続人全員が合意をする必要があり、一人でも欠けた場合には、その協議は無効となります。
協議は口頭でも有効に成立しますが、後になって争いが起こるのを防ぐために、合意した内容を「遺産分割協議書」という書面で残しておくことが一般的です。
遺産分割協議に期限はなく、いつでも行うことができます。
関連記事:やり直し出来る?遺産分割による相続登記(不動産の名義変更)について解説
法定相続分どおりに取得
相続人のうち、誰か特定の人だけが取得するのではなく、BCDが法定相続分どおりに取得することもできます。
法定相続分どおりの割合で行う登記手続きを、「法定相続」といいます。
事例とは異なりますが、Aの法定相続人がB一人しかいないときも、法定相続となります。
法定相続の場合には、登記手続き上は、遺産分割協議書を作る必要はありません。
ただし、遺産分割協議を行ったうえで、法定相続分どおりに取得するという合意内容になった場合には、書面で残しておくことをお勧めします。
関連記事:法定相続分による相続登記の流れ|保存行為で単独申請する場合についても解説
遺産分割調停・審判で決定した通り
相続人の間で話がまとまらないときは、家庭裁判所に対し遺産分割調停の申し立てを行うこともできます。
遺産分割調停は、大まかにいうと、裁判所に関与してもらいながら遺産分割協議を行う手続きです。
それでも合意が成立しない場合には、遺産分割審判という形で解決を図ります。
遺産分割協議と同じく、遺産分割調停の申立て自体には、特に期限はありません。
ただし、2021年の民法改正により、特別受益や寄与分の主張については、相続開始から10年という期間の制限が設けられることになりました。
特別受益や寄与分は、どちらも相続人間の公平を図るための制度で、それぞれ次のような場合に問題となります。
特別受益 | 相続人の中に、被相続人から贈与や遺贈を受けた人がいる場合 |
寄与分 | 相続人の中に、介護をしたり家業に従事したりして、被相続人の財産の維持・増加に貢献をした人がいる場合 |
(スマホでは右にスクロールできます)
これらの事情を考慮せずに遺産分割を行うことが公平ではない場合もありますので、協議の場で、取得する財産や持分を調整することができます。
この特別受益や寄与分について、遺産分割調停・審判の中で主張する場合、相続の開始から10年を経過したときは、もはや主張することができなくなります。
ただし、相続の開始から10年以内に調停の申立てをしていた場合には、申立てに続く調停・審判の手続きの中で主張することができます。
この改正は、2023年4月28日までに施行されます。
改正法の施行前に相続が発生したケースについても、この規定が適用されます。
この場合の期限は、次の㋐㋑のうち、どちらか遅い時までとなります。
㋐相続開始の時から10年を経過する時
㋑改正法の施行の時から5年を経過する時
関連記事:遺産分割調停成立後の相続登記|調停調書の文言や必要書類についても解説
関連記事:遺産分割審判による相続登記|登記原因や競売となった場合についても解説
相続分の譲渡
相続分の譲渡とは、自分の法定相続分の全部または一部を、他の人に譲ることです。
渡す相手は、相続人に限られず、相続人以外の人に譲渡することもできます。
事例で、DがEに対し、自分の相続分の全部を譲渡したとしましょう。
この場合、相続分を譲渡したDは、遺産分割協議の当事者とはならず、譲渡を受けたEが、BCとともに話し合いをすることになります。
協議の結果、本来はAの相続人ではないEが、Aの財産を取得するという合意をすることも可能です。
ただし、EはAの相続人ではありませんので、AからEに直接、登記の名義を移すことはできません。
いったんBCDに法定相続分で相続登記を入れたうえで、Eに対して持分を移転する登記を申請することになります。
関連記事:相続分の譲渡と相続登記|添付書類や第三者へ譲渡した場合についても解説
法定相続人の中で相続放棄をした人がいる場合の注意点
遺産分割協議などに関与すべき「相続人」は、基本的には法定相続人のことですが、その中に相続放棄をした人がいる場合には、注意が必要です。
相続放棄とは、負債も含めた相続財産のすべてを受け継がないことができる制度です。
放棄をするためには、家庭裁判所でその旨の申述をする必要があります。
この申述は、自分のために相続の開始があったことを知ったときから原則として3か月以内に行わなければなりません。
遺産分割協議で財産を取得しないことを「放棄」と表現することもあるようですが、遺産分割と相続放棄は全く別のものです。
遺産分割の場合は、あくまで協議の対象となった特定の財産についてのみ、権利を受け継がないとするものです。
これに対し、相続放棄が認められると、権利や義務のすべてを承継せず、申述をした人は当初から相続人ではなかったという扱いになります。
そのため、遺産分割協議に参加する必要もありません。
ただし、登記の際には、相続を放棄したことを証明する書類(裁判所から発行される相続放棄申述受理証明書)も提出する必要があります。
相続登記の流れ
ここからは、実際に相続登記を申請する場合の、手続きの流れを見ていきます。
主に、次のことを行います。
①被相続人名義の登記簿謄本を取得する
②必要書類を収集する
③遺産分割協議書を作成する
④登記申請書を作成する
⑤登記を申請する
⑥登記完了後、登記識別情報通知を受け取る
故人名義の登記簿謄本を取得
まずは、法務局で、被相続人が名義人となっている不動産の謄本を取得します。
現在の不動産の状態を把握し、手続きに必要となる書類を正確に作成するためです。
謄本を請求するためには、所在地番や家屋番号で不動産を特定する必要がありますが、これは固定資産税課税明細書、権利書、名寄帳などに記載されています。
この段階で被相続人名義の不動産をすべて把握しておかないと、一部の不動産については相続登記がされず、結果として放置されたような状態になってしまいます。
見落としがちなケースとしては、次のようなものがあります。
- 戸建て住宅で、私道を持っている場合
- 戸建て住宅で、道路やごみ置き場などを近所の人と共有している場合
- 集合住宅で、集会所やポンプ室などの持分を持っている場合
特に道路については、非課税になっていることが多く、課税明細書に記載がないことも少なくありませんので、注意が必要です。
なお、2021年の法改正により、新しく「所有不動産記録証明書」の交付に関する規定が設けられました。
所有不動産記録証明書とは、簡単に言うと、ある特定の人が登記名義人となっている不動産のリストのことで、法務局が発行します。
登記名義人自身のほか、登記名義人が亡くなった場合にはその相続人も、証明書を発行してもらうことができます。
この証明書が発行されるようになれば、一部の不動産だけ手続きがされずに残ってしまうという事態は少なくなると思われます。
また、不動産の調査にかかる時間や費用も減りますので、より相続登記の手続きをしやすくなることが期待されます。
所有不動産記録証明書に関する規定は、2026年4月28日までに施行されます。
必要書類を収集する
相続登記には、主なものだけで以下の書類が必要になります。
- 被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本 ※出生から死亡までのものすべて
- 相続人全員の戸籍謄本 ※現在のもの
- 除籍附票 または 住民票除票
- 登記を申請する年度の評価証明書または課税明細書
- 遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書つき)、調停調書など
このうち、取得するのに最も手間や時間がかかるのは、被相続人の戸籍だと思われます。
戸籍は結婚やコンピュータ化などで作り替えられますので、出生から死亡まで集めると、通常は一人あたり2通~5通くらいになります。
戸籍の発行請求は、本籍地がある自治体の役所に対して行います。
結婚や転籍などにより本籍を移している場合には、それぞれの本籍地の役所に請求をしなければなりません。
この点に関し、戸籍法の改正により、一部の戸籍については、本籍地がある市区町村以外の役所でも取得することができるようになります。
ただし、改正により取得できるようになるのは、自己・配偶者と、父母・祖父母・子・孫など、いわゆる縦の関係の戸籍のみです。
兄弟姉妹や叔父叔母など、横や斜めの関係の場合には、現在と同様、本籍地がある自治体でなければ取得できません。
改正法は、2024年5月31日までに施行される予定です。
遺産分割協議書を作成
遺産分割協議書には、誰がどの財産を取得するのかを記載し、相続人全員が署名(記名)押印をします。
一通の遺産分割協議書に財産のすべてを記載する必要はなく、例えば、不動産に関するものと預貯金に関するものを別々に作成することもできます。
また、全員で一通の協議書に署名押印をする必要もなく、同じ記載内容であれば、それぞれ相続人が作成する形でも問題ありません。
所有権移転登記の登記申請書を作成
添付する書類がすべてそろったら、登記の申請書を作成します。
申請書のひな型や書き方は、法務省のホームページに記載されています。
戸籍や遺産分割協議書は、申請書と一緒に、原本を法務局に提出する必要があります。
ただし、これらの書類は相続税の申告や銀行口座の解約などでも使うものですので、登記が終わった後に返してもらうことができます。
法務局で登記申請
登記を申請する方法としては、次の3つがあります。
①法務局の窓口に行って提出する
②申請書や添付書類を郵送する
③インターネットで申請する
司法書士が手続きを行う場合には、③の方法で行うことが多いですが、ご自身で申請される場合には、①か②のどちらかの方法がやりやすいかと思います。
登記完了後、登記識別情報通知の受け取り
登記が完了すると、「登記識別情報通知」「登記完了証」という書面が交付されます。
登記識別情報通知は、従来の登記済証に代わって発行される書類です。
将来、不動産を売却したり担保に入れたりするときに必要な書類で、再発行もされませんので、なくさないよう大切に保管しておいてください。
登記完了証は、登記の審査が終わったというお知らせですので、登記識別情報ほど重要ではありません。
また、申請の際に添付した戸籍や遺産分割協議書についても、登記識別情報などと一緒に受け取ることができます。
郵送で送ってもらうことも可能ですが、この場合には、事前に郵送を希望する旨を申請書に記載し、返信用封筒を提出しておく必要があります。
相続登記にかかる費用
相続登記手続きにかかる費用は、主に実費と報酬とに分けられます。
実費 | 登録免許税、郵送・交通費、戸籍などの証明書の発行手数料 |
報酬 | 司法書士に依頼した場合の、代理手数料 |
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司法書士や不動産業者などから提示される登記費用は、通常、実費と報酬を併せた金額になっています。
登録免許税
相続登記の登録免許税は、原則として (固定資産評価額)×0.4%で計算します。
固定資産評価額は、評価証明書や固定資産税課税明細書に記載されており、相続が発生した年度ではなく、登記を申請する年度の金額を用います。
司法書士の報酬(手数料)
司法書士の報酬は、それぞれの事務所が自由に決めることができますので、どこに依頼するかによって差が大きく出ます。
定額制の事務所もありますが、不動産の評価額、相続人の人数、相続関係の複雑さ、名義変更をする不動産の個数などにより変動・加算されるところも多いです。
関連記事:相続登記の費用はいくらくらい?必要経費と報酬の相場について解説
自分で手続き出来る?
相続登記の手続きは、必ずしも司法書士に依頼する必要はなく、ご自身で行うことも可能です。
ただし、申請するまでに手間や費用がかかりますし、ミスがあると取り下げになってしまう可能性もあります。
以下に、比較的やりやすい場合とそうではない場合を挙げましたので、ご自身で手続きをされるかどうかの参考になさってみてください。
手続きが比較的やりやすいケース | ・相続人が配偶者や子しかいないなど、相続関係が比較的わかりやすい ・被相続人が、ほとんど本籍地を移していない |
手続が複雑になる可能性があるケース | ・相続人が兄弟姉妹や甥姪 ・相続人の中に、既に亡くなっている人がいる ・相続人の中に、海外に住んでいる人がいる ・不動産がいろいろな場所にある、個数が多い ・長期間、登記手続きがされていない |
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この記事の執筆者
-
東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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