更新日:2022-11-19
『家族信託の概要を知りたい』
『家族信託を利用するとどんなことができるのかな?』
『認知症対策に家族信託が有効と聞いた』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士、行政書士の樋口です。
近年、認知症対策や生前対策として家族信託が注目を浴びています。
・病気やケガで自分が銀行に行けない時に、代わりの人にお金の引き出しを任せたい
・万が一のとき、家族にお金で迷惑をかけたくない
・特殊詐欺に備えたい
・計画的に資金を使いたい
家族信託を上手に利用すれば、このような悩みを解決したり、希望を実現したりすることができます。
とはいえ、知識や経験が乏しい専門家に依頼すると、想定外の不利益を被るおそれもありますので、相談先は慎重に選ぶようにしましょう。
この記事では、そもそも信託とは何か、家族信託の制度や概要、活用事例やデメリット、利用する際の手続きの流れ等、図解を交えて誰にでもわかるよう詳しく解説しています。
家族信託を検討されている方の一助となれればと思いますので、よろしければ最後までご覧ください。
この記事で分かること
そもそも信託とは
家族信託を解説する前提として、まずは「信託」という制度について見ていきます。
信託とは、財産の所有者が、持っている資産を信頼できる人に託し、予め決めた特定の目的に従って管理・処分・運用をしてもらう制度のことをいいます。
信託ではありませんが、大家さんが、管理会社に対して不動産の管理を委託する場合をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。大家さんは、管理会社との間で不動産の管理委託契約を交わし、賃料の集金や物件の管理を任せます。
管理会社は大家さんのために不動産の管理・維持全般を担い、その対価として管理委託料を受け取ります。
信託の場合、資産を託す人は、託される人との間で取り決めをし、合意で指定された人のために、財産の処分・管理・運用や給付・分配を委ねます。 信託において資産を託す人を「委託者」、資産を託された人を「受託者」、管理等の対象となる財産を「信託財産」、信託財産から給付や分配を受ける人を「受益者」といいます。
先ほどの不動産管理の例えで言うと、大家さんが委託者兼受益者、管理会社が受託者、不動産が信託財産にあたります。
ただし、不動産の管理委託契約の場合、管理会社は、たとえ大家さんの利益になるとしても、自分だけの判断で物件を売却したり賃貸に出したりすることはできません。
一方、信託にすると、委託者の関与なしに、受託者が不動産の売却や賃貸をすることも可能になり、受益者も種々のメリットを享受することができます。
信託の制度自体は大正時代から存在しましたが、比較的最近になって、現代社会のニーズや経済情勢に応えるため、大きな法改正が行われました。
かつては金融商品というイメージが強かった信託ですが、法改正をきっかけに、より身近な問題を解決するためにも利用されるようになりました。
信託には、大きく分けて民事信託と商事信託の2つがあります。
種類 | 規律 |
民事信託 | 信託法 平成19(2007)年から改正法が施行された 信託の一般的なルールが設けられている |
商事信託 | 信託業法 平成16(2004)年から改正法が施行された 信託をビジネスとして利用する事業者に対し、様々な規制を課している |
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民事信託
民事信託とは、受託者が営利を目的としないで引き受ける(ビジネスではない)信託のことを指します。
このうち、特に家族や親族間で利用される信託のことを、一般に「家族信託」と呼んでいます。
「民事信託」「家族信託」はどちらも法律用語ではありませんが、信託法が改正され、世の中に信託が普及していくのに伴い、広く用いられるようになりました。
商事信託
営利を目的とした信託のことで、信託銀行や信託会社が引き受けるケースが代表例です。
信託銀行や信託会社は、顧客から託された財産について、契約の目的に従って管理、運用、処分、給付などを行い、その対価として報酬をもらいます。
家族信託とは何か
家族信託は、家族間の様々な問題に柔軟に対処できるよう、民事信託の枠組みの中で生みだされた財産管理の仕組みです。
家族信託が注目されている大きな理由の一つとして、認知症による資産の凍結を防止できるという点が挙げられます。
重度の認知症等により判断能力が低下した場合には、原則として全ての資産が凍結されてしまいます。
凍結されるというのは、不動産であれば売却や賃貸、担保提供等の法律行為が、預貯金であれば出金や振込等の行為ができなくなることを意味します。
通常、不動産の売却等の際には、物件の所有者に対して、司法書士による意思確認や本人確認の手続きが行われます。
このときに財産を処分するのに必要な判断能力が認められなければ、その後の手続きを進めることはできません。
預貯金の場合、金融機関が認知症等の事情を知ったときは、原則として口座への入出金が停止されます。
たとえ親族であったとしても、本人の関与なく勝手にお金を引き出したりすれば、民事責任や刑事責任を問われかねません。
家族信託が普及する前は、主な対策としては、成年後見人等を選任してもらう、判断能力が衰える前に贈与・売却をするというくらいしか方法がありませんでした。
しかし、成年後見人の行為には基本的に家庭裁判所の事前許可と事後報告が必要ですので、必ずしも思いどおりに財産の処分ができるようになるわけではありません。
不動産の贈与をすると高額な贈与税や不動産取得税がかかりますし、売却をするにしても希望どおりの金額やタイミングで売ることができるとは限りません。
こうした悩みに対処するために考え出されたのが家族信託で、上手に利用することで、例えば次のようなことが可能になります。
- 成年後見制度を使わなくても、信頼できる親族にあらかじめ財産を託し、財産を管理をしてもらうことができる
- 積極的に資産を運用してもらうことで、親族に経済的に依存することなく老後の生活を送ることができる
- 資産が凍結されて病院や介護施設の費用の捻出が困難になる、という事態を防ぐことができる
家族信託の活用事例
家族信託の主な利用目的としては、下記のものが挙げられます。
- 認知症による資産凍結を防止する
- 特殊詐欺等の犯罪被害を防止する
- 積極的な資産運用を行う
- 実質的な生前の遺産分割協議を行う
- 遺言書では実現できない資産の承継先を指定する
- 障がい等を持つ子の親なき後を支援する
- 遺言書の書換を防止する
認知症による資産凍結を防止する
家族信託を利用する理由として最も多く挙がるものです。
判断能力が低下する前に家族信託の契約をしておけば、のちに認知症等を患ったとしても、受託者が単独で信託財産の管理・処分・運用をすることが可能になります。
オレオレ詐欺等の被害を防止する
信託する財産は委託者が選ぶことができますので、必要最低限の財産のみを手元に残し、それ以外の資産を信託する、という内容にすることもできます。
仮に委託者が特殊詐欺等に巻き込まれたとしても、信託財産は失われませんので、被害額を最小限に食い止めることができます。
積極的な資産運用を行う
昨今、老後資金の不足や年金支給額の減少が取りざたされていることもあり、積極的な資産運用を図りたいという方が増えています。
また、相続税の節税のためにアパートを建てるなどし、賃料収入を生活資金に充てたいというニーズもあるでしょう。
しかしながら、高齢になってから資産運用や節税対策を行うのは負担が大きいですし、判断力が鈍って最良の選択ができなくなってしまう可能性もあります。
なお、仮に成年後見人等が選任されたとしても、その役割は財産の維持管理にありますので、積極的に資産を増やしてくれることはありません。
信託を利用すれば、難しい資産運用は信頼できる親族に委ね、自身はゆとりのある老後生活を送るということも可能になります。
実質的な生前の遺産分割協議を行う
亡くなっていない人の資産については、推定相続人であっても遺産分割協議をすることはできませんし、仮にそのような合意をしたとしても法的には何の効力ももちません。
一方で、死後の財産の行く末を、自ら生前に決めておきたいという方もいらっしゃるかもしれません。
信託では、契約が終了したとき(一般的には委託者兼受益者の死亡時)に信託財産を受け取る人を決めることができます。
誰が信託財産を取得するか話し合っておけば、実質的には生前に遺産分割協議を行ったのと同じ結果を生じさせることが可能になります。
遺言書では実現できない資産の承継先を指定する
遺言では、いわゆる二次相続が発生した場合の資産の承継先を指定することはできません。
例えば、「遺言者Aが死亡した場合には、Aの配偶者であるBに相続させ、その後Bが亡くなった場合には、子であるCに相続させる」という遺言は、Cに相続させる部分については無効となります。
そのため、配偶者Bが、Aから相続した財産を第三者Xに遺贈するという内容の遺言をした場合には、遺産をCに継がせるというAの希望はかなわなくなってしまいます。
家族信託では、順次相続が発生した場合の資産の承継先を決めることが可能ですので、確実に遺言者の希望どおりに承継させることができます(受益者連続型信託契約)。
障がい等を持つ子の親なき後を支援する
家族の中に介護や支援を要する人がおり、自分が高齢になったり死亡したりした後のことを不安に思われている方もいらっしゃるかと思います。
家族信託は、このような悩みにも対応することが可能です。
例えば、親が障がいのある子の世話をしている場合、親が元気なうちに、信頼できる親族等を受託者とする信託契約を交わしておきます。
契約の中で、親が亡くなったあとの受益者と信託財産の承継先を子に指定しておけば、将来にわたって子のために財産管理が行われることになります。
また、子の意思能力が不十分で、遺言書の作成や遺産分割協議への参加が難しい場合でも、信託契約では、当初の委託者である親が、子の財産の承継先を決めることもできます。
遺言書の書換を防止する
複数の遺言書がある場合には、重複する部分については、後に作成された遺言のほうが有効になります。
しかし、どちらの遺言が有効なのかの判断がつかない場合も少なくなく、遺言書が何通もあるというだけで、相続人間で無用の混乱やトラブルが起こりかねません。
信託契約の変更を制限すれば、合理的ではない資産の承継先の変更を防止することができ、結果的に遺言書の書換えを抑制することにつながります。
家族信託のデメリット
デメリットとまではいえませんが、家族信託を取り入れるにあたって注意すべき点をいくつか挙げます。
導入にあたり初期コストがかかる
家族信託は非常に難しい制度ですので、利用にあたっては専門家の協力が必要不可欠です。
専門家としても、信託財産、信託関係者、信託の内容に合わせたオーダーメイドの家族信託を提示する必要があるため、最低でも30万円以上の報酬を要します。
しかし、税金や実費代はそこまで大きな金額にならないことが多く、また、成年後見人等と違い、原則として毎月々かかるようなコストもありません。
成年後見は原則として一生涯続きますので、長い目で見ると、家族信託の方が費用を安く抑えることができるといえます。
比較的新しい制度であるため、世間に浸透していない
法改正がなされて信託が世間に広まったのが比較的最近ですので、利用の件数が多くはなく、実務例・判例等がまだ確立していません。
そのため、金融機関、市区町村役場、税務署、不動産会社等で話をする際、担当者によって対応がまちまちになったり、手続きがスムーズにできなかったりする可能性もあります。
経験の浅い専門家に頼むと将来予期せぬリスクが発生する恐れがある
家族信託を組成するだけであれば、国家資格は不要です。
一方で家族信託は複雑な制度ですので、知識や経験が乏しい人が扱うと、本来の望みが叶えられないばかりか、予期せぬトラブルに巻きこまれてしまう恐れもあります。
直接的な節税効果はない
相続対策として家族信託が取り上げられることも多いですが、ここでの「対策」は、財産を円滑に次世代へと承継させることが主な目的です。
相続税の節税という点から見ると、家族信託に直接的な節税効果はありません。
家族信託の関係者
ここからは、生前に委託者と受託者とで信託契約を交わして家族信託をする場合を念頭に置いて、家族信託の関係者を解説していきます。
なお、信託は①信託契約、②遺言信託、③自己信託のいずれかの行為(信託行為)で設定しますが、家族信託では①が大部分を占め、②や③が活用される事例は多くありません。
委託者 | 信託行為に基づき財産を託す人 |
受託者 | 信託行為に基づき財産を委託される人 |
受益者 | 信託行為で定められ、信託財産から利益を享受する人 |
受益者代理人 | 受益者のための代理人 受益者の権利に関する裁判上又は裁判外の一切の行為をする権限がある(法139条) |
信託監督人 | 受益者のために受託者を監督する人 受益者のために自己の名をもって裁判上又は裁判外の一切の行為をする権限がある(法132条) |
信託管理人 | 受益者がなんらかの事由に伴って存在しなくなった場合に備えて選任される人 受益者のために、自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限がある(法125条) |
信託事務代行者 | 受託者が行う事務を代行する人 |
信託指図権者 | 受託者がする信託財産の管理や処分に際して、信託行為で定めた一定の行為について、指図をする権利がある人 |
信託同意権者 | 受託者が行う一定の行為につき、同意をする権限を持つ人 |
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委託者、受託者、受益者は必ず登場する関係者で、この3者が揃わないものは家族信託ではありません。
ただし、同じ人が複数の立場につくこともでき、家族信託では、委託者が受益者を兼ねる事例(自益信託)がほとんどです。
受益者代理人、信託監督人、信託管理人、信託指図権者、信託同意権者を定めるためには、信託行為でこれらの人を選任することができる旨を定める必要があります。
信託事務代行者に事務を依頼する場合には、必ずしも信託行為で定める必要はありません(信託法(以下、「法」といいます。)28条)。
委託者
例えば、親子間で行われる家族信託では、高齢の親が委託者となるケースが多いです。
委託者には信託法によって様々な権利が認められていますが、その全部又は一部を信託行為で制限することもできます(法145条)。
家族信託では委託者の権利を制限することが一般的で、信託が開始した後は、基本的に委託者が関わることはなくなります。
受託者
受託者の主な仕事内容は、委託者から託された信託財産を、管理・運用・処分し、受益者に対して給付・配当することです。
善管注意義務、忠実義務、公平義務等の負担が生じますので、委託者と信頼関係のある子や配偶者が受託者に選ばれるケースが多いです。
なお、受託者の重荷となる善管注意義務を信託行為で軽減することは可能ですが、義務そのものを免除することはできません。
受益者
一般的な家族信託では、委託者が受益者となることがほとんどです。
受益者あっての家族信託ですので、これを定めない信託は原則として認められておらず、また、法定された受益者の権利の行使を信託行為で制限することもできません(法92条)
なお、より当事者のニーズに合った信託にするために、後継受益者や残余財産受益者(法182条1項1号)の定めを置くこともあります。
受益者代理人
家族信託では、受益者が認知症等を患って意思表示ができなくなった場合に備えて、受益者代理人を選任することができる旨が定められることが一般的です。
例えば、受益者である親のために、受託者ではない子を受益者代理人にしたりします。
いったん受益者代理人が選任された場合には、受益者自身は原則として権利を行使することができなくなります。
信託監督人
先ほどの受益者代理人が受益者の代理人として行動するのに対し、信託監督人は、第三者としての立場で受託者を監督します。
受託者が適正に事務を遂行しているかを監視・監督するため、司法書士や弁護士等の専門家が選ばれることも少なくありません。
通常は信頼関係がある親族が受託者になりますので、適正な業務遂行が期待でき、信託監督人を定める必要性は低いと考えられます。
信託管理人
家族信託では、受益者が存在しなくなる事態はあまり想定できないので、信託管理人が選任されるケースはほとんどないと考えていいでしょう。
信託事務代行者
受託者の仕事の中には、税務申告など、法律の専門家ではない方が行うには負担が大きい事務もあります。
このような事務については第三者に任せることも可能で、税務申告であれば、受託者から受任した税理士が信託事務代行者となります。
信託指図権者
例えば、中小企業のオーナーが、認知症によって議決権の行使ができなくなる場合に備え、自社株式を信託するとします。
この場合、認知症を発症する前の議決権行使については、委託者(中小企業のオーナー)の指示に従ってほしいときには、信託指図権者が定められることがあります。
信託同意権者
不動産の売却等、受託者が一定の行為をするときには信託同意権者の同意を要する、という定めを置くことがあります。
受託者以外の人も関与させることで、より慎重に手続きを進めることができ、受益者の利益が図られることになります。
家族信託を利用する際の流れ
家族信託を利用する際の流れや必要な手続きは、下記の通りです。
①専門家への相談
②専門家を交えての家族会議
③信託契約書案の作成
④信託契約書の公正証書化
⑤信託の登記
⑥信託口口座の開設
⑦金銭を信託口口座へ振込
⑧受託者が受益者のために管理、運用、処分をスタート
➀司法書士や弁護士等の専門家に相談
家族信託は難解なため、手続きを検討中の方は、まずは専門家に相談されることをおすすめします。
相談先としては、司法書士、弁護士、行政書士、信託銀行などが挙げられますが、得手不得手が分かれやすい分野ですので、知識や経験が豊富なところを選ぶようにしましょう。
司法書士
信託財産の中に不動産がある場合には、信託の登記手続きが必要です。
司法書士は登記の専門家ですので、信託契約書の作成、組成、登記手続きまでワンストップで対応することができます。
弁護士
弁護士は、登記手続きも含め、信託のすべての段階に対応することができます。
なお、実際には、登記の申請ついては提携の司法書士に外注することも少なくありません。
複数の専門家が関与する場合には、1つの事務所で手続きが完結する場合に比べ、報酬が高くなる傾向があります。
行政書士
専門家に支払うコンサルティング報酬に関しては、一般的には行政書士がいちばん低いです。
ただし、行政書士は登記申請の代理人になることはできませんので、別途司法書士に依頼して手続きをしてもらう必要があります。
信託銀行
信託銀行では、公正証書遺言の作成や遺言執行がセットになった商品を「家族信託」という名前で提供していることも少なくありません。
この場合の「家族信託」は、本稿で解説してきた家族信託とは全く違うものですので、内容を十分に確認し、ご自身の目的に合ったサービスを利用するようにしてください。
➁専門家を交えて家族会議
後になって認識の相違に気づいたりトラブルが生じたりすることを防ぐため、家族や親族の間で十分に話し合いをするようにしましょう。
また、制度上の危険や注意点を理解し、関係者のために最も良い信託を設定するためにも、専門家を交えて話を進めていくことをおすすめします。
➂信託契約書案の作成
関係者の間で決めた事項が問題なく実現できるよう、専門家が信託契約書の文案を作成します。
各家庭の事情に応じて様々なケースが想定されることから、契約内容に関してもオーダーメイドで作成する必要があり、専門家の力量の差が出やすい部分です。
➃信託契約書の公正証書化
できあがった契約書案を確認し、十分に納得がいく内容になったら、公証役場でこの信託契約の案を公正証書化します。
信託契約は、必ずしも公正証書でする必要はありませんが、後々の紛争を防止するため、公正証書で作成するようにしましょう。
また、金融機関で信託口口座を開設する際には、通常は公正証書でないと手続きをしてもらえません。
➄家族信託の登記
信託財産の中に不動産がある場合には、委託者から受託者への所有権移転登記と、信託の登記を同時に申請します。
登記手続きが完了すると、登記簿の甲区の所有者の欄に、信託をした原因日付、受託者の住所、氏名、受託者である旨と、信託目録の番号が記録されます。
(甲区の登記記録例)
⑥信託口口座の開設
信託口口座とは、委託者○○信託受託者○○信託口のように、受託者が管理する信託専用の口座です。
受託者には信託財産と受託者個人の財産を分けて管理する義務がありますし、また、不要なトラブルを避けるためにも、信託口口座の開設は必須といえます。
現在把握している限りで、信託口口座の開設が可能な金融機関を挙げます。
地方銀行 | 常陽銀行 武蔵野銀行 千葉銀行 千葉興業銀行 東和銀行 栃木銀行 京葉銀行 長野銀行 |
信託銀行 | みずほ信託銀行 三井住友信託銀行 オリックス銀行 |
信用金庫 | 埼玉縣信用金庫 横浜信用金庫 かながわ信用金庫 平塚信用金庫 さわやか信用金庫 芝信用金庫 西武信用金庫 城南信用金庫 世田谷信用金庫 |
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⑦金銭を信託口口座へ振込
口座の開設が完了したら、信託財産として拠出した現金を、信託口口座へ振込みます。
以後の信託事務に関する経費の支払いや、受益者に対する給付は、こちらの口座で管理します。
信託財産の中に不動産があり、固定資産税・都市計画税、管理費・修繕積立金等の引落口座として委託者の口座が指定されている場合には、引落とし先の変更手続きも行います。
不動産を賃貸に出しているときは、賃借人に対して振込先変更通知を郵送し、今後の賃料は信託口口座に振り込んでもらうよう協力を要請します。
➇受託者が受益者のために管理、運用、処分をスタート
信託契約の定めに従って、信託事務をスタートします。
事前に入念に確認していたとしても、実際に事務を行っていく中で疑問点が出てくることもあるかと思います。
また、長期間にわたって事務を行うため、契約時には想定していなかった事態が起こってしまうことも考えられます。
不明な点があるので確認したい、信託の内容を変更したいといった要望が出てきた場合には、当初依頼した専門家に相談してみましょう。
家族信託にかかる費用
上のほうでも触れましたが、家族信託に関しては、設定時に一定の出費があるほかは、費用はほとんどかかりません。
実費
公証役場の手数料、登記簿謄本や戸籍謄本等の取得費用などがあります。
公証役場の手数料
信託財産として拠出する金額のほか、誰にいくら承継させるか、受託者に対する報酬等によって、公正証書の作成手数料が変わってきます。
また、通常は信託契約公正証書の正本や謄本の発行もしてもらいますので、その発行手数料も必要になります。
登記簿謄本等取得代
信託契約書の作成に際しては、登記簿謄本、戸籍謄本、固定資産評価証明書等の書類を取得します。
税金
一般的に財産を移転すると、無償で利益を得たときには贈与税が、不動産を取得したときには不動産取得税が課税される可能性があります。
一方、自益信託の設定に伴う所有権の移転は形式的なもので、実質的には受託者が委託者の財産を預かっているという状態です。
そのため、通常の財産の移転とは区別され、現時点では贈与税や不動産取得税の課税対象とはなっていません。
ただし、信託財産に不動産がある場合には登記を申請しますので、その際に登録免許税を納める必要があります。
専門家の報酬
依頼先や相談の内容によっても差が出ますので、あくまで目安としてご参照ください。
手続きの内容 | 報酬 |
相談、コンサルティング | 30万円~ |
信託契約書作成 | 10万円~ |
登記手続きの報酬 | 9万円~ |
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すでに認知症の場合でも利用できる?
家族信託を利用するには、契約を締結できるだけの意思能力が必要です。
意思能力というのは、信託契約を結ぶことによってどのような法律効果が自分に及ぶのかを理解する能力のことです。
認知症を患い、意思能力がないと認められるほど判断能力が低下している場合には、契約を交わすことが難しいですので、信託を設定することもできません。
他方、認知症の程度が軽度で、契約の効果などを理解することができるのであれば、信託を利用することも可能と考えられます。
家族信託は自分でできる?
家族信託の手続きを一般の方だけで行うことは、可能ではありますが、現実的には難しいと思われます。
契約書案の作成や登記手続きには専門的な知識が必要になりますし、金融機関によっては専門家が関与した信託契約書でないと口座が開設できないこともあります。
希望に沿った信託を実現するためにも、まずは専門家に相談されることをおすすめします。
この記事の執筆者
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東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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