更新日:2021-12-28
『相続分を譲渡した場合の登記手続きについて詳しく知りたい』
『相続人以外の第三者に対して譲渡を検討しているけど、面倒なことにならないかな』
『相続分の譲渡をする場合の登記の必要書類は何だろう』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、相続、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
遺産分割協議がまとまらない場合や、面倒な相続手続きから解放されるため等、『相続分の譲渡』手続きを検討している方もいらっしゃるかと思います。
相続分の譲渡があった場合には、相続人へ譲渡する場合と相続人以外の第三者へ譲渡する場合で相続登記の手続きが異なりますので注意が必要です。
この記事ではそもそも相続分の譲渡とは何か、相続分の譲渡があった場合の相続登記手続きについて、図解イラストを交えながら具体例をもとに解説しています。
この記事で分かること
そもそも相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、各共同相続人が遺産全体に対して持っている包括的持分を他の人に譲ることをいいます。
人が亡くなると、遺産はその人の相続人に引き継がれます。
誰がどの財産を取得するかは遺産分割などにより確定しますが、それまでの間は、遺産は共同相続人全員が共同して持つことになります。
この遺産共有状態のときに、各相続人が遺産に対して有している包括的持分のことを、一般に「相続分」と呼んでいます。
民法などの条文で明確に規定されてはいませんが、相続分は、他の相続人を含む第三者に譲渡することができると考えられています。
また、相続分を放棄して、自分の割合的持分をゼロとすることも可能です。
相続分という概念は、遺産を共有している間だけのものですので、相続開始前や遺産分割終了後に譲渡をすることはできません。
譲渡により、プラスの財産もマイナスの財産も含めた割合的持分が移転します。
ただし、債務が移転したことを債権者に対しても主張するためには、その承諾を得なければならないとされています。
相続分を譲り受けた人は遺産分割に参加する資格を得ますので、譲受人を除外して行った協議は無効になります。
一方、譲渡人の参加については、相続分の一部のみを譲渡した場合には必要ですが、全部を移転した場合には不要です。
なお、相続分の譲渡をする場合には、次の税金が課税される可能性があります。
譲渡人 | 譲受人(相続人) | 譲受人(相続人以外) | |
無償の場合 | 譲受人が相続人 :なし 譲受人が相続人以外 :相続税 |
相続税 | 贈与税 |
有償の場合 | 譲受人が相続人 :相続税 譲受人が相続人以外 :相続税、譲渡所得税 |
相続税 | ー |
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関連記事:放置してもかかる?相続登記(不動産の名義変更)と相続税について解説
相続分の譲渡があった場合の相続登記
相続分の譲渡に関する登記手続きは、譲受人が相続人か相続人以外かによって、大きく違ってきます。
ここからは、相続人への譲渡の場合と相続人以外への譲渡の場合に分けて、それぞれ説明していきます。
そもそも相続登記とは何かという点について詳しく知りたい方は『相続登記とは?亡くなった人の不動産の名義変更について法改正点も含め解説』をご覧ください。
相続人に譲渡した場合
【事例① 】
登記名義人Aが死亡した。
Aの相続人は子BCDの3名である。
DがBに対し、自己の相続分全部を譲渡した。
まだ法定相続分による登記がされてない場合には、この手続きを経ることなく、AからBCへ、直接に名義を移すことができます。
他方、すでに共同相続の登記が入っているときは、これにより登記名義人となったDの持分3分の1を、「相続分の贈与(売買)」を原因としてBに移転する手続きをします。
【事例②】
登記名義人Aが死亡した。
Aの相続人は子BCDの3名であるが、遺産分割が未了のうちにDも死亡した。
Dの相続人はEFである。
BがEに、CがFに、それぞれ相続分を譲渡したあと、EF間でEが不動産を取得する旨の遺産分割協議が成立した。
数次相続があった場合において、第一次相続人と第二次相続人との間で相続分の譲渡がされたときは、被相続人から譲受人へ名義を直接移すことはできません。
このようなケースでは、順次①②③の登記を申請するのが原則です。
①被相続人から第一次相続人へ、相続による所有権移転登記
②第一次相続人から第二次相続人へ、相続による持分全部移転登記
③譲渡人から譲受人へ、相続分の贈与(売買)による所有権移転登記
関連記事:法定相続分による相続登記の流れ|保存行為で単独申請する場合についても解説
関連記事:共有持分を相続した場合の相続登記|計算方法や相続人が不存在の場合も解説
ただし、事例②では、相続分の譲渡後に遺産分割がされており、このようなケースでは、AからEへ、相続により直接に所有権を移転することが可能とされています。
この場合の登記原因は、「年月日(Aの死亡日)D相続、年月日(Dの死亡日)相続」となります。
関連記事:中間省略できる?数次相続が発生している場合の相続登記について解説
相続人以外の第三者に対し譲渡した場合
【事例③ 】
登記名義人Aが死亡した。
Aの相続人は子BCDの3名である。
DがEに対し、自己の相続分全部を譲渡した。
法定相続分の登記
相続分の譲渡を受けたEは相続人そのものではありませんので、「相続」を原因としてAか らEへの名義変更手続きをすることはできません。
事例③のようなケースでは、まずAからBCDへ、法定相続分による所有権移転登記の手続きを行う必要があります。
相続分の売買若しくは相続分の贈与
共同相続による登記を経たあと、相続分の譲渡による持分移転登記の手続きを行います。
なお、2件の登記を同時に申請することも可能です。
登記原因は、譲渡が無償でされたときは「相続分の贈与」、有償の場合は「相続分の売買」となり、単に「相続分の譲渡」として申請することは認められていません。
登記申請書
【事例①】相続人への相続分の譲渡の場合
※1 登記の目的
Aが不動産を単独で所有していた場合には「所有権移転」、共有していたときは「A持分全部移転」と記載します。
※2 登記の原因
事例①の場合には、AからBへ「相続」を原因として名義を直接に移すことができます。
このときの原因日付は、相続開始の日(Aが亡くなった日)になります。
※3 登録免許税
相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、(登記を申請する年度の固定資産評価額)×(0.4%)で算出します。
例えば、固定資産評価額の合計額が2,000万円の場合、登録免許税は8万円になります。
【事例➂】相続分の譲渡による持分移転登記の場合
※1 登記の目的
相続人以外の人へ相続分の譲渡がされた場合には、㋐法定相続分による相続登記、㋑相続分の譲渡による持分移転登記の2件の登記申請が必要です。
事例③の場合、㋑の登記の目的は「D持分全部移転」となります。
※2 登記の原因
無償で譲渡されたときは「相続分の贈与」、有償の場合には「相続分の売買」と記載します。
原因日付は相続分譲渡契約が成立した日です。
※3 登録免許税
相続分の贈与(売買)を原因とする第三者への所有権移転登記の登録免許税は、(登記を申請する年度の固定資産評価額)×(2%)で算出します。
例えば、固定資産評価額の合計額が2,000万円の場合、登録免許税は40万円になります。
添付書類
上に挙げた登記を申請する場合の、添付書面をそれぞれまとめました。
(添付書類-事例① 相続人への相続分の譲渡の場合)
添付書類 | 具体的な書類 |
登記原因証明情報 | ・Aの出生から死亡までの戸籍 ・BCDの現在戸籍 ・遺産分割協議書(BCの印鑑証明書つき) ・相続分譲渡契約書、相続分譲渡証明書(Dの印鑑証明書つき) ・Aの最後の住所を証明する除票、戸籍附票 |
住所証明情報 | B及びCの住民票、戸籍附票、印鑑証明書 |
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(添付書類-事例③ 相続分の譲渡による持分移転登記の場合)
添付書類 | 具体的な書類 |
登記識別情報 | 共同相続の登記を入れた際に発行されたDのもの |
登記原因証明情報 | 相続分譲渡契約書、相続分譲渡証明書(Dの印鑑証明書つき) |
住所証明情報 | Eの住民票、戸籍附票、印鑑証明書 |
印鑑証明書 | Dの印鑑証明書(申請前3か月以内のもの) |
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登記原因証明情報
相続分の譲渡による登記に特有の添付書類としては、相続分譲渡契約書や相続分譲渡証明書があります。
また、相続登記と一緒に手続きをすることも多く、この場合には戸籍謄本や遺産分割協議書なども必要になります。
戸籍謄本
通常の相続登記の場合には、次の戸籍謄本が必要です。
被相続人 出生から死亡まで、すべての戸籍・除籍・原戸籍謄本
相続人 相続人全員の戸籍謄本(抄本)
なお、法定相続情報一覧図の写しを添付した場合には、上記の戸籍一式を用意する必要はなくなります。
遺産分割協議書
遺産分割協議書の書き方は特に決まっていませんが、次の事項が特定されていないと、無効になる可能性があります。
・被相続人が誰か
被相続人の死亡日、本籍地などを記載します。
・誰がどの財産を取得するか
財産は、不動産であれば謄本どおりの表示を、預貯金であれば金融機関名・支店名・口座番号などを記載します。
協議書には、遺産分割に参加すべき人全員が実印を押印し、その印鑑証明書も添付します。
相続分の譲渡を受けた人も話し合いに加わらなければなりませんが、全部譲渡があった場合の譲渡人は参加する必要はありません。
遺産分割と相続分の譲渡が行われた場合には、分割協議書のほかに相続分譲渡証明書(契約書)も提出しなければ、法務局や銀行での手続きをすることができません。
遺産分割協議書には相続分の譲渡についての記載がなく、これのみでは、財産の取得者を決める際に関係者全員が関与したかどうかがわからないためです。
関連記事:やり直し出来る?遺産分割による相続登記(不動産の名義変更)について解説
相続分譲渡証明書
相続分の譲渡をするには、譲渡人と譲受人の合意があれば足り、口約束だけでも効果が生じます。
ただし、あとで争いが起こるのを防ぐため、通常は、相続分譲渡契約や相続譲渡証明書などの書面を作成します。
書面の様式や内容について特に決まりはありませんが、一般的には次の事項を記載します。
・被相続人の最後の住所、氏名、死亡年月日
・譲渡人及び譲受人の住所氏名、譲渡年月日
契約書や証明書に押す印鑑は、譲受人は認印でも問題ありませんが、譲渡人については実印の押捺が必要です。
実印であることを証明するために譲渡人の印鑑証明書も添付しますが、特に期限はありません。
(相続分譲渡証明書の例)
相続分の譲渡は当事者間の合意があれば成立し、他の相続人の同意は必要ありません。
ただし、譲渡がされれば遺産分割に参加すべき人が変わりますので、他の相続人にとっても大きな影響が出る可能性があります。
無用のトラブルを防ぐため、相続分譲渡通知書を送るなどして、譲渡があった事実を知らせることをおすすめします。
住所証明情報
新たに登記名義人となる人の住所を証する書類として、住民票、戸籍の附票、印鑑証明書などを添付します。
固定資産評価額が分かる書類
申請書の添付書類欄には記載しませんが、課税価格や登録免許税を算出するために、固定資産評価額がわかる資料も必要になります。
被相続人が亡くなった年や相続分の譲渡がされた年のものではなく、登記を申請する年度のものを用意します。
具体的には、固定資産評価証明書や、固定資産課税明細書などを用意します。
この記事の執筆者
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東京司法書士会所属 登録番号7208号
東京都行政書士会所属 登録番号第19082417号
司法書士法人リーガル・ソリューション 代表司法書士
行政書士事務所リーガル・ソリューション 代表行政書士
前職の不動産仲介営業マン時代に司法書士試験合格。
都内の司法書士法人に転職し経験を積んだ後、司法書士法人リーガル・ソリューションを設立、同社代表社員就任。
開業以来、遺産相続、不動産登記手続き、不動産に関する紛争の解決(立ち退き、賃貸トラブル、共有物分割請求、時効取得等)に特化。
保有資格は、司法書士、行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者、競売不動産取扱主任者。
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